三浦龍司の「感覚と感性を理解」 五輪選手を輩出、順天堂大監督が重視する指導法
選手1人ひとりの才能を見抜き、個を伸ばしていく陸上指導者の、独自の育成理論やトレーニング法に迫るインタビュー連載。今回は2大会連続で学生ランナーを五輪の舞台へ送り出し、今年の箱根駅伝ではチームを総合2位に導いた順天堂大学陸上部の長門俊介監督に、東京五輪に出場した三浦龍司(順天堂大3年)に対する指導法について話を聞いた。(取材・文=佐藤 俊)
連載「陸上指導者の哲学」、順天堂大学陸上部・長門俊介監督インタビュー第1回
選手1人ひとりの才能を見抜き、個を伸ばしていく陸上指導者の、独自の育成理論やトレーニング法に迫るインタビュー連載。今回は2大会連続で学生ランナーを五輪の舞台へ送り出し、今年の箱根駅伝ではチームを総合2位に導いた順天堂大学陸上部の長門俊介監督に、東京五輪に出場した三浦龍司(順天堂大3年)に対する指導法について話を聞いた。(取材・文=佐藤 俊)
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東京五輪の3000メートル障害(通称サンショー)で7位入賞を果たし、7月にオレゴンで開催された世界陸上にも出場した三浦龍司。代表内定を決めた日本選手権でも終始トップの快走で優勝し、国内では無双状態だ。その三浦を指導しているのが、順天堂大学陸上部の長門俊介監督である。3000メートル障害未経験の監督が塩尻和也(現・富士通)、三浦と2大会連続で五輪に選手を送り出した指導論について聞くと、「壁を作らない指導を心掛けてきました」と語る。長門監督の言う“壁”とは一体、どういうものなのだろうか。
「指導者自身にその競技実績があると、どうしても固定概念のようなもので練習の内容などで成長度合いを図ってしまったり、また、ある一定の記録に対して、壁を作ってしまう傾向にあると思います。塩尻にリオ五輪を目指させる時にも、8分30秒を切るところに壁があるという考えを経験者である仲村(明)コーチは持っていましたが、私は経験がない分、壁を作らずに指導してきました。しかし、順天堂には3000メートル障害の選手を育成するノウハウが多くあり、私はそのようなノウハウをもとに練習をアレンジし、新たなアプローチで強化に取り組んできました」
塩尻には、目前にあった2016年のリオデジャネイロ五輪を目指すことを言葉にして、意識させるところから始まった。三浦は塩尻よりもスピード、ハードリング技術ともに高く、日本記録を意識させるなど高みを目指し、必要なことだけを伝え、指導していった。両者に共通して言えることは、ハードル技術ではなく、リズムの変化に対応する力や脚筋力を高めるところを重視したという点だ。
「三浦については、ハードルの跳び方や技術指導にあまり重きを置いていません。その必要性がないほど彼のハードル技術が高いからです。(塩尻と三浦の)両者に対しては、脚筋力とリズムの変化については意識して取り組ませています。3000メートル障害は、障害を迎えるたびにリズムを崩してしまいますが、そのようななかでもリズムの崩れを最小限に抑えることが大事です。また、着地した時の衝撃を抑えることも重要であり、その2つが強化のポイントです」
三浦の指導に関しては、もう一つ大事にしていることがある。
「アスリートには、感覚や感性が優れ、その感覚を指導者になかなか理解してもらえず、苦しんでいる選手が多くいるように思います。本学は、元々選手の個性を理解し、本人が納得して練習に取り組めるようにしています。特に三浦は、感覚に優れており、その感覚を理解してあげることや、気付いてあげることが私の役割でもあると思います。それが上手くリンクしているのかもしれません」