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結婚が「大きな転機になった」 一山麻緒のコーチが見た変化、“3食自炊”の姿に感服

2人の交際を知った合宿「すごくいいなと思いました」

 福士は、自ら追い込んだ末の故障もあり、結果を出せなかった。では、一山の場合は、どうだったのだろうか。

「一山くんは東京五輪の1年前に札幌でハーフを走り、自己ベストを出したのですが、その時、プラカードなどで『東京五輪反対』というのを目にしたり、耳にしたことで東京五輪に向かう気持ちを整理できなかった。それがメンタルに影響したかなと思っています」

 本当に自分は走っていいのか。

 そう考え、悩んだ選手は、一山だけではなかっただろう。同時に一山のナイーブさを感じさせる話でもあるが、最近、彼女に大きな変化が見えてきたと永山コーチは言う。

 東京五輪後、一山は鈴木健吾(富士通)との結婚を発表した。永山コーチが、2人の交際を知ったのは徳之島の合宿だった。朝、海をぼんやり眺めていた時、一山が鈴木とジョグをしていた姿を見て不思議に思ったが、その朝食後、一山から報告を受けた。

「私は、すごくいいなと思いましたね。2人とも競技に対して真面目に取り組んでいます。その報告を受けた後、鈴木くんはびわ湖で日本記録(2時間4分56秒)を出しましたし、一山くんも大阪国際でいい走りをしてくれた。結婚は、2人にとってすごく大きな転機になったと思います。特に一山くんはすごく落ち着いて、意識が非常に高くなりました」

 永山を一番驚かせたのは、一山が普通にこれまで通り練習をこなしながら、朝、昼、夜と3食、食事を作り、普段の生活から妥協を一切していないことだった。

「前は、練習して寮に戻れば食事が用意されていて、マッサージして寝るだけだったんです。でも、今は朝から練習して朝食を作り、昼食を作り、午後に練習で40キロを走った後も夕食を作って、2人で食べている。どんなにきつい練習もポカをせず、やり切って、終わったら挨拶をして、サッと上がっていくので、文句のつけようがないですね。大丈夫かなと心配になるところもありますが、彼女は明らかに精神的にタフになってきていますし、鈴木くんからいろんなことを学びながら生活しているので、これからが楽しみです」

 心技体が充実しつつある一山に、永山コーチは本物の強さを感じ始めている。

【第1回】福士加代子、一山麻緒を輝かせた「裏方の経験」 五輪に5度導いた名将が貫くこだわり

【第2回】福士加代子から「学ばせてもらった」 五輪で4度“共闘”の恩師、感謝とともに抱く悔い

(佐藤 俊 / Shun Sato)

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永山 忠幸

資生堂ランニングクラブ 専任コーチ 
1959年生まれ、熊本県出身。東京農業大時代に4年連続で箱根駅伝に出場。2000年にワコールの監督に就任すると、福士加代子の才能を見出し、長距離走とマラソンで2004年から4大会連続で五輪出場に導いた。東京五輪の女子マラソン8位入賞の一山麻緒も指導し、今年4月に揃って資生堂へ移籍。専任コーチとして、24年パリ五輪出場を目指している。

佐藤 俊

1963年生まれ。青山学院大学経営学部を卒業後、出版社勤務を経て1993年にフリーランスとして独立。W杯や五輪を現地取材するなどサッカーを中心に追いながら、大学駅伝などの陸上競技や卓球、伝統芸能まで幅広く執筆する。『箱根0区を駆ける者たち』(幻冬舎)、『学ぶ人 宮本恒靖』(文藝春秋)、『越境フットボーラー』(角川書店)、『箱根奪取』(集英社)など著書多数。2019年からは自ら本格的にマラソンを始め、記録更新を追い求めている。

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