「息子が試合に出してもらえない」と言う母 ドイツで実感した小学生指導の心配り
2年後、ヤンは持久力のあるプレーでメキメキと成長
たまたまヤンは僕の長男と同い年で、以前から仲良くしていたので、直接話を聞いてみた。落ち込んでいるのかなと思ったら、思わぬ返事が……。
「え? 俺、けっこう出ているよ」
お母さんの話では前後半各30分のうち、それぞれ10分そこそこしか出ていないようなのだが、彼の体感では「半分くらいは出ている」ようだ。それに彼曰く「得点にはつながってないけど、良い感じのプレーはできている」というのだ。試合に関われているという手応えはしっかりあるらしい。
そして、彼は自分の監督をとても慕っていて、信頼していて、チームメートと過ごす時間を大事にしている。お母さんから見ると、チームの中では比較的体が小さく、足も速いほうではないヤンが、あまり起用されないのが気が気でないのだろう。ヤン本人もその状況を辛いと思っているのなら、僕も違ったアドバイスをしたと思う。だが、彼本人が出られないことでさほど「つまらない」「楽しくない」というネガティブな気持ちを持っていないのなら、もう少しこのまま様子を見てもいいのではないかと思い、そう伝えた。
それから2年。ヤンも、僕の長男もDユース(U12-U13:小学5-6年生相当)に上がった。交代に制限がないのはそのままだが、今度はグラウンドはほとんど大人と同じサイズになり、人数は9対9に。ルールとして、オフサイドを取るようになってくる。
ヤンはここへきて、めきめきと目立つ動きをし始めた。彼はスピードこそ、やや他の子より劣るものの、持久力があり、長時間のプレーでもパフォーマンスが落ちないのだ。ヤンだけでなく、ヤンと同じように起用機会の少なかった他の子どもたちも出番が増えた。それぞれの年代に応じた試合形式を経験していく中で、彼ら個々の成長もどんどん追いつき、それぞれの持ち味がより発揮されやすくなったと言えるだろうか。
もし、ヤンのチームの監督が、Eユース時代に一部の選手に偏った起用をし、上手い子中心のチーム作りをしていたら、今頃は主力の子どもたちでしか戦えない、心もとないチームになってしまっていただろう。今その時だけのビジョンで戦ってはダメなのだ。