子供の自主性をいかに育むか サッカー指導に一石を投じた達人の巧みな話術
指導者が率先して靴を並べ、後片付けをする
「よう履いたな。靴がクツクツ笑っているかもしれん。これでは滑って危ないかもしれんから、ご両親にお願いしてみなさい」
「やったあ、じゃあ買っていいですか?」
大喜びする子供を見て、浜本はすぐにクギを刺す。
「おお、お前がお金を持っているのか?」
浜本は、人に指示をするのもされるのも嫌いだ。だから「挨拶せえ」とか「整頓せえ」とは言わない。会えば自分から挨拶をするし、遠征に出かければ率先して靴を並べ、後片付けをしてきた。それを見て、子供たちもやるべきことを学び取ったのだ。
「些細なことでも、あらゆる機会を捉えて絆を作り、人間性を育んでいく。中には使い終わったシューズを綺麗に洗って飾る子もいるんですよ」
今ではJクラブでも、高額塾に通い、頻繁に高価なスパイクを買い替えるエリートが目につく。だがそんなエリートが、大人になった時、本当に世界に伍して戦えるのだろうか。
実は達人は、エリート組織でも忘れがちな育成の要諦を、しっかりと伝え続けているのかもしれない。
(文中敬称略)
【了】
加部究●文 text by Kiwamu Kabe