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イニエスタが逆足で触るのは5%以下 “点で触る”利き足指導で磨かれた子供たちの感性

三好康児(写真は川崎フロンターレ所属時)【写真:Getty Images】
三好康児(写真は川崎フロンターレ所属時)【写真:Getty Images】

誰の目にも明らかな成長 「持ち方が良ければ周囲の状況も把握できる」

 高崎は川崎U-12の選手たちに告げた。

「点で触ろう」
「……」
「ボールペンの先でつつく1点。そこでボールに触る感覚にならないと、本当のテクニックじゃない」

 指導方針を変えたのは高崎が担当した2期生からで、三好康児(横浜F・マリノス)、板倉滉(フローニンゲン)らの1期生にも後から伝えている。彼らも意識して実践し、今日の成長に繋げている。

「テーマを与えると、子供たちは“これが点かな”と勝手に考えるようになります。その感覚が研ぎ澄まされていくことが、よく判るという意味になります。それがよく言われる“考えて伸ばす”という一つの側面なんだと思います。相手と向き合った時に、どこで触るのか。ずれたら反省して、次はどうするかを考える。あとは個人の感性ですね」

 1期生を土台に、指導はどんどん研磨されていったという。実際に川崎U-12は、2008年から4年連続してダノンネーションズカップ日本大会を制し、世界大会を経験した。ジュニアユースに進級した選手たちが下の学年を見て、つい愚痴をこぼす。

「いいなあ、あいつら、あんなに上手くなってきている」

 小学生たちの成長ぶりは、誰の目にも明らかだった。

「フロンターレは組織だって攻守に連動すると、よく言われました。でもそんな練習は一度もしたことがありません。ボールの持ち方次第で、見えてくるものも変わってくる。持ち方が良ければ、周囲の状況も把握できるし、相手の癖を見抜く観察力も上がる。そういう子供たちが同じ狙いを持てれば、勝手に守備の連動を始めるんです」

 高崎は、川崎の福家三男前GMから「勝たせられる」という評価を得た。だが内実は、個を伸ばすことに軸足を置き、それが結果を導き出していた。

「ゲームの内容が伴わなければ日本一なんて要らない。そこで勝ってもプロになれるわけじゃない。やはりいつでもどこでも評価される選手に育って欲しい。そう思って携わってきました」

 本当に両足平等で良いのか? 小さな疑問に端を発した変革だった。(文中敬称略)

(第3回へ続く)

[指導者プロフィール]
高崎康嗣(たかさき・やすし)

1970年4月10日生まれ。東京農工大学卒業、筑波大学大学院体育研究科コーチ学専攻修了。筑波大学コーチ、東京大学ヘッドコーチなどを経て、川崎フロンターレではU-18コーチ、Uー12監督などを歴任。U-12監督時代には、ダノンネーションズカップ国内大会を4年連続で制し世界大会に出場。三好康児、板倉滉、田中碧、久保建英ら、さまざまな年代で現在プロで活躍する多くの選手たちの指導に携わる。2016年からはグルージャ盛岡でヘッドコーチを務め、今年専修大学の監督に就任した。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)

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加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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