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入学数か月で10人退学 異端の通信制高校、選手権出場まで1勝に迫った一期生の3年間

一期生の3年生12人「本当に続けてきて良かった」

 上船がプロの基準を求めたのは、ピッチ上だけではなかった。

「トレーニング以外の時間の使い方、人間力、自主練習の姿勢……、日常生活も含めたすべてでプロの基準を要求してきました。プロの選手たちには当たり前のことなので、それができなければ目標は達成できない。もちろん、中学生時代までの経験とのギャップが大きく、それを苦しいと感じた選手たちが多かったのも事実です」

 結局プロジェクトがスタートして初めての夏には、プロを目指して入学してきた21人中16人が「一度気持ちを整理したい」と自宅へ帰り、10人はそのまま退学した。「大学生との試合が多く自信をなくした」という声もあれば、「食事や掃除当番を守らないヤツがいて、サッカーに集中できない」ことを理由にする者もいた。残る側にもやめていく側にも甘さがあり、本当にプロを目指すのがどういうことなのかを描けている選手は少なかった。

 しかし淡路島で過ごしてきた編入生も含めた12人の3年生は、今「本当に続けてきて良かった」と話している。前途多難な船出で波乱万丈の航海を経たメンバーは、必ずしも全員がハッピーエンドを迎えたわけではない。だが最後の選手権予選に挑む12人は、レギュラー、サブ、メンバー外と立場は分かれながらも全員が一枚岩になり、紛れもなくそれぞれの役割を全うした。

 例えば内田楓は、唯一3年生で決勝戦をスタンドから見守った。本来なら途中からアルゼンチンへの留学を考えていたが、コロナ禍で叶わなかった。それでも土壇場までモチベーションを落とさずに、メンバー入りを目指した。

「決勝戦前日のトレーニングでも誰よりも頑張った。後輩たちにも、そんな姿勢は伝わったはずです。当日も保護者の方々にユニフォームを配り、チームが良い雰囲気で戦えるように全力で支えてくれた。負けた瞬間には一番悔しそうに涙を流していました。僕は常々『求められることをこなすのは当たり前。何事にも想像以上のことをやってのけるのが超一流』だと話してきました。楓はピッチ外でも超一流の仕事をして盛り上げてくれた。本当に感動しました」(上船)

 相生学院はプロを目指すプロジェクトなので、すでに讃岐に合流していた福井は選手権に出場しなくても良かったし、スタッフもそのつもりでいた。だが選手権出場は、福井がどうしても譲らずに切望した。

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加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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