為末大「努力は夢中に決してかなわない」 選手を競技に没頭させる指導のヒント
「義務」からの解放が、夢中へとつながる
指導者は選手を競技に没頭させるためには、どうすればいいのでしょうか。
それは義務から選手を解放することです。例えば、「勝たなければならない」「より上の順位に行かなければならない」ということから、意識を解放させることが大事です。漫画を読んでいると夢中になれるじゃないですか。それは読んでも評価されないからです。でも読書感想文を書くとなり、評価されるとなると急に読む姿勢も変わってしまいます。
アスリートの場合、上に行けば行くほど、期待値は上がりますし、義務から自分の心を解放するのは難しくなります。しかし「ここは絶対に勝つぞ!」と指導者が言うと、選手は期待に応えなければならないと思い、そう思えば思うほど、夢中からは遠ざかってしまいます。ちなみにチーム競技よりも、個人競技の方が義務から解放する必要性が高い。チーム競技だと、組織の中でそれぞれ役割があるので期待との向き合い方も少し違うからです。いずれにしても、周囲の期待や義務との向き合い方を実践しながら、自分なりの向き合い方を定めていく必要があります。
指導者の場合は「選手にかける期待」を表現する時には注意が必要でしょう。
選手は指導者に失敗したのを見られると、心理的にショックを受けます。指導者は、自分の視線が選手に与える影響を知り、上手に目線を外したり、戻してみたりしながら、選手がのびのびとしたり、きゅっと緊張したり、緩急をうまく扱えるようになるのが理想です。つまり、「見ない技術」を覚えることが重要です。指導者は自分の身体が出しているメッセージ、首の角度でさえもどういう影響を与えているのかを理解しながら、指導をしなければなりません。
子どもたちを1列に並ばせて、ハードルを跳ばせて転ぶと痛がってやらなくなります。実際、転んで痛いというよりは、仲間に転んだのを見られることで自尊心が傷つくからです。そのことを踏まえて、横5列に並べるなど他の人の目を気にしなくてよいように配慮をすると、転んだとしても途中で止めたいというお子さんはあまりいません。
のびのびとプレーできるように、このような工夫も参考にしてみてください。