為末大、五輪延期で考えるアスリートのピーキング「心にも体力がある、これを忘れずに」
心にも体力がある。このことを忘れずに
では、次にピーキングの基本についてお話します。
ピーキングとは、パフォーマンスを最大化したいタイミングに合わせて何をするかを逆算して考え、決め、実行していくことです。ベースにあるのは、「与えられた刺激に対して、人間の身体は反応する、適応する」という原理を利用するという考え方です。
例えば、長く走れば、それだけ長く走れるようになる。その原理を利用するのです。
難しいのは、「選手にとっての理想の状態」を定義するとき、いろいろな考え方があるということです。私の考えでは、土台にはやはり「心」があり、その上に身体、さらにその上に技術があります。ベースとなる心が良好な状態でなければ、身体も技術も伸びないと捉えます。
しかしよく陥りがちなのは、技術的に最高なものを求め過ぎるあまり、徹底的にトレーニングを行った結果、心理的に最悪の状態になってしまうことです。これは日本のアスリートにはよくあることで、心にも体力があるという発想がないからだと思います。それゆえ、心、つまりモチベーションは無尽蔵に湧いてくると思われていることが多い。実際、メンタルモンスターのような選手は乗り越えてしまいます。でも私の考えでは、心も上下すると思うので、ピーキングを考える時は心を意識してコントロールする必要があると思うのです。
これらの考え方は、全て私自身の実践から来ています。現役時代を振り返っても、心理的に走ろうという気持ちになれないとき、結局、パフォーマンスは出せませんでした。そんな経験を踏まえて、心は結構、重要なのだと知りました。
現役時代には、「心、身体、技術」の3つに対して、どう向き合っていくべきかをよく考えていました。前段の「与えられた刺激に対して、人間の身体は反応する、適応する」という原理を利用すると、自分の身体にAという刺激を入れると、Bになると理解することから始めます。
具体的に説明すると、たくさん走った場合、2日間疲れて、3日後には回復するというパターンを認識する。そのパターンをもとに理想に近い形に持って行く方程式を作り出していくといいと思います。ただし人間の身体は、加齢と共に反応する、適応する確度は変わるというのを理解しておく必要があります。