なぜ、部活の走り込みは嫌われるのか 「走って根性を鍛えろ」の教えは正しいか
むやみな負荷で故障のリスクも…「走りの効率性が悪いと肉離れを起こしやすい」
伊藤「自分も中学まで野球部だったので、振り返ると、なんで練習だけあんなにキツイのか、というのが野球。試合の方がすごく楽だなという……。個人的には野球は走り込みではなく、そもそもその動きにどういう特性があるかを考え、目的に合ったトレーニングを取り入れるべきではないかと思います。瞬発系のスポーツなので、長距離的な動きは要らないと思います。
投手は特に9回を投げるスタミナを養うために走り込みをする文化がありますが、ピッチングは力を一瞬で発揮する動作を100回くらい繰り返す。それは、瞬発的な動作を連続して行うこと。でも、走り込みは緩い力の発揮を長時間行う動作で、力の出し方が異なります。ダッシュだったり、ウエイトトレーニングで重いものをガッと持ち上げたりした方が効果はあるはずです」
こうしたトレーニングのミスマッチが生まれる理由について、伊藤氏は「そこまで指導者側の考えが至っていないのかなと感じます」と見る。一方、秋本氏はむやみに走らせ、体に負荷をかけることで故障のリスクを危惧する。
秋本「サッカーはポジションによって1試合10キロ以上走るので、長い距離を走ることはわかります。走り込みと直結する可能性がイメージしやすい。一方で、走りの効率性が悪いと肉離れなどを起こしやすい。でも、指導者は『その部分の筋力が足りないから鍛えろ』という発想が多い。そもそもの走り方が悪かったら故障を繰り返してしまいますが、わからないままやってしまう。
例えば、サッカーの試合中に足がつっても『アイツは根性があるから』とプレーを続けさせる指導者もいます。根性があるから何でもやれる、という文化をいい加減、変えないといけないのではないでしょうか。そういう感覚を持った中学、高校の指導者はかなり多いと感じています。『走って根性を鍛えろ、心を鍛えろ』が競技にどうつながるのかという疑問は感じます」
では、どうすれば“無目的な走り込み”の文化は変わるのか。秋本氏は陸上選手がいい走りの技術を身につければ、「走っても疲れない」感覚になることを挙げた上で、こう語る。
秋本「そういう走りの教育を小さい頃からしてあげることが必要だと思います。野球だから野球専門の人だけではなく、走りの専門家がいて、ウェートトレーニングの専門家がいて、という具合に正しい走りを伝えてあげる人がいると、『走り込み=つらい、キツイ』という概念はなくなると思います。しっかりとした走りができれば効率が良くなり、楽にすることはできます。
燃費のいい車に乗っても、運転技術が荒かったらガソリンが減るようなもの。いい技術を手に入れて、いい走りができれば、当然、燃費が良くなってきます。短い距離からちょっとずつ伸ばしていくことが本当は理想ですが、いきなり100メートル何十本、何十キロ走と長い距離のメニューを出してしまうから、ただきついだけの走り込みという印象がついてしまいます」