陸上部のない中学で全国1位に たった1人で農道を駆けた離島ランナー、順大・川原琉人が夢見る箱根の山
陸上部のない中学で全国1位に 高校はたった1人、近所の農道で練習
長崎の五島列島のひとつ、福江島出身。山梨学院大で箱根駅伝ランナーだった叔父に憧れ、小1で「陸上やる!」と言った。進学した中学に陸上部はなく、陸上経験者だった祖父・高弘さんの指導を受け、中3で3000メートル全国1位のタイムを出すまでに成長した。
一度は長崎本土の高校に進学したが、2年夏に福江島にある五島南に転校。陸上部は5人、長距離は川原だけ。指導者はおらず、練習メニューも自分で考える。午前5時半から朝練を始め、放課後はいったん帰宅して、近所の農道や土のグラウンドを一人、走り込む日々。フェリーなら3、4時間かかる距離を大会のたび、本土に渡る。
そんなハンデを乗り越え、2年の1月の全国都道府県駅伝で1区区間新。学校のOBらの寄付金を募り、出場にこぎつけた3年の8月インターハイ(北海道)は5000メートル決勝17位ながら、留学生ランナーを従え、魂を揺さぶる逃げで陸上ファンの心を鷲掴みにした。
「順天堂大学のモットーはトラックでもロードでも、やりたいことをやる。自分の競技経験から、一番合うと感じた」。OBの三浦龍司に憧れ、選んだのは箱根駅伝11度優勝の名門・順大。たった1人で練習するしかなかった川原には今、13人の同級生がいて、先輩たちと寮で共同生活を送る。
上下関係や集団練習も新鮮な体験の連続。「雰囲気がとても良くてやりやすい。一人でやっていたジョグもみんなでやることで意識が高まるし、負けられない気持ちもある。目指している先輩と一緒に練習して成長ができる」と活力に満ちた日々を過ごしている。
この日、印象的だったのはスタート前の選手紹介。
名前がコールされると、川原は順天堂の「J」のポーズを手で作り、スタンドの応援団に向かって深々と頭を下げた。
「一人でやってきた分、チームに対する想いが大切になる。応援してくださる順大の方々がいるし、中盤以降はこれ以上(順位を)落とさないと考えて走りました」
仲間のために走る。陸上の新たな楽しさを知った14分間だった。