少数精鋭でも“出番の少ない選手”は生まれる 異色の高校が大所帯の部活を目指す理由
「日本には埋もれている選手がたくさんいる」というエンゲルス氏の指摘
「3年間ポジティブに夢を追い続けられる選手は驚くほど成長する。それは1期生たちの活動を通して実感しています。しかし逆にやる気のない日や消極的な日があれば、無駄な時間が増えてしまう。だから僕は、全員のモチベーションを高く統一したいと考えました。そのために最も大切なのは、誰もが毎日納得してピッチに立つことだと思うんです」
例えば多くの大所帯の強豪大学では、選手たちを複数のチームに分けて別々の活動をしている。概ね個々が、それなりに公式戦を経験する機会は担保されている。
だが反面、Bチーム以下の選手がAチームの主力たちと平等に評価されることは滅多にない。
「Bチーム同士の試合で2ゴールを挙げても、Aチームの選手ならもっと取れていたかも、と見られがちです。場合によってはトップチームの監督に見てもらえない選手もいます」
上船総監督はドイツでプレーしていた経験があり、当時からJリーグでの監督経験を持つゲルト・エンゲルス氏と関係が深い。そのエンゲルス氏が何度も繰り返し口にしていたのが、「日本には埋もれている選手がたくさんいる。それがドイツをはじめ、欧州との大きな違いだ」という指摘だった。
大所帯の部活では、どの選手を起用するのかが、たった1人の監督に委ねられている。
「ずっとBチーム以下でプレーしている選手が、プロにはなれないと諦めるのは無理もありません。でも相生学院で初めてプロ契約をした福井悠人は、前籍の賢明高校1年時はトップチームにも入れていなかった。ところが相生に転校してきて2年時にはJクラブに練習参加をして、3年時にはプロデビューを飾っています。僕の定義では、選手を潰すというのは諦めさせていることだと思うんです」
つまり大所帯の部活では、監督の構想や、時には好みから外れた選手たちが道を閉ざされてしまう。ではなぜ上船総監督は、少数精鋭に見切りをつける決断をしたのか。実はJアカデミーの成果が滞っているヒントが、そこには隠されている。