桐生祥秀はなぜ「くすぶり」を打破できた? 専門家が見た9秒台の「2つの理由」
21歳、さらなる伸びしろも…「肉体的に進化、技術的に洗練できる余地はある」
「向かい風や無風に近い条件でも10秒0台を出していた。しかし、彼の場合は追い風が技術的にもプラスに作用しやすいです。というのも、桐生選手はフォームが後傾すると力みやすいところがある。それに対し、1.8メートルの追い風であれば、背中に風を感じながら走ることができ、フォームを保つ意味でも後押ししてくれる効果があったと思います」
今季は国内レースの決勝では向かい風に泣かされることが多く、条件さえ整えば十分に9秒台を出す力は持っていた。それはサニブラウン、山縣亮太、ケンブリッジ飛鳥らも同様だが、桐生に最も早く最高の条件が巡ってきた。
しかし、日本人初の9秒台という金字塔を打ち立てたことは、キャリアにおいても大きな意味があるようだ。
「一番先に9秒台を出せたのは大きな自信になると思います。自分の走りをしたことで記録がついてきた。これで変に気負わず、力を出す必要がないんじゃないかという気づきにつながる。しかも、今回は多田選手と競った中で記録を出したこともプラスになるし、今後、世界で9秒台を出す上でも大きな経験になったと感じます」
とはいえ、まだ21歳。スプリンターとしての伸びしろもあるという。
「高3で10秒01を出してから、経験を積み、走りのテクニックも肉体的な筋力も当時を上回っています。しかし、今回はこの試合に合わせたベストじゃない。着実に地力をつけてきた中で、肉体的にまだ進化でき、技術的にも洗練できる余地はある。9秒台という記録を持っていることを自信にして、さらに勝負できる選手になっていけると思います」
桐生祥秀は「日本人初の9秒台スプリンター」という金看板を背負い、さらなる進化を遂げていく。
◇伊藤 友広(いとう・ともひろ)
高校時代に国体少年男子A400m優勝。アジアジュニア選手権の日本代表に選出され、400m5位、4×400mリレーではアンカーを務めて優勝。国体成年男子400m優勝。アテネ五輪では4×400mに出場。第3走者として日本過去最高順位の4位入賞に貢献。国際陸上競技連盟公認指導者資格(キッズ・ユース対象)を取得。現在は秋本真吾氏らと「0.01 SPRINT PROJECT」を立ち上げ、ジュニア世代からトップアスリートまで指導を行っている。
http://001sprint.com/
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ジ・アンサー編集部●文 text by The Answer