羽生結弦の「SEIMEI」に見る、フィギュア選手の再演が意味する「挑戦」とは
現役時代に再演を経験した小塚氏「曲は成績だけでなく選手の器も成長させる」
小塚氏自身、現役時代に再演を決断した経験がある。フリーで、12年から「序奏とロンド・カプリチオーソ」、14年から「イオ・チ・サロ」と、ともに2年連続で演じた。当時を振り返りながら、こう話す。
「シーズンで滑っていく過程で、自分の技術がアップグレードされていきます。その中で、シーズン中にどうプログラムを作り上げていくか。シーズンが終わった際に100%のものが完成したと思っていても、自分の技術や表現力が上がることで、100%と思っていたものも120%、150%と成長していけます。再演は1年かけて曲を新たに作り込み、体に馴染ませていく作業がない分、上乗せがしやすい。その点において、心地良かった曲に戻して滑ることに意義があると思います」
しかし、実際には1シーズンで曲を完璧に作り上げるのは、至難の業だという。「選手にとって、1シーズンは短い。なかなか滑り切れないものなんです」と語る。
「きっちりうまくハマって上乗せする場合もあれば、70%ぐらいしかできてないから、もう1シーズンかけて自分のものにする場合もある。2シーズン連続、もしくは過去に使った曲に戻すのは、自分の実力が上がっているからこそ、過去の自分に挑戦したいという気持ちの表れ。守りではなく、もっと自分を高めたいという挑戦の意味合いが強いと思います」
いかにスケーターにおいて、曲がもたらす影響が大きいか伺い知れる。「選手にとって演技曲とはどんな存在なのか」と問うと、小塚氏はこんな風に表現した。
「自分を成長させてくれるものです。自分の波長が合って表現しやすい環境を作ってくれることもあれば、これまでの自分のレパートリーになくて新しい挑戦として自分の体を曲に合わせていくこともある。どちらのパターンもありますが、成績だけではなく、選手の器も成長させてくれるものが曲です」
自らの“パートナー”というべきもの。では、そんな重要な存在を、どう選ぶのか。いくつかのパターンに分かれるという。