スポーツ団体「女性理事4割」の目標は妥当? 数合わせに流されず、真の多様性を確保するには
競泳の元五輪代表選手で、引退後は国連児童基金(ユニセフ)の職員として発展途上国の平和構築・教育支援に従事し、2021年から一般社団法人「SDGs in Sports」代表としてスポーツ界の多様性やSDGs推進の活動をしている井本直歩子さんの「スポーツとジェンダー」をテーマとした「THE ANSWER」の対談連載。毎回、スポーツ界のリーダー、選手、指導者、専門家らを迎え、様々な視点で“これまで”と“これから”を語る。第5回のゲストは日本パラリンピック委員会の河合純一委員長。競泳選手としてパラリンピック6大会で金メダル5個を含む計21個のメダルを獲得した同氏と全3回で議論する。今回は中編。(取材・構成=長島 恭子)
連載第5回「競泳アトランタ五輪代表・井本直歩子×日本パラ委員会・河合純一」中編
競泳の元五輪代表選手で、引退後は国連児童基金(ユニセフ)の職員として発展途上国の平和構築・教育支援に従事し、2021年から一般社団法人「SDGs in Sports」代表としてスポーツ界の多様性やSDGs推進の活動をしている井本直歩子さんの「スポーツとジェンダー」をテーマとした「THE ANSWER」の対談連載。毎回、スポーツ界のリーダー、選手、指導者、専門家らを迎え、様々な視点で“これまで”と“これから”を語る。第5回のゲストは日本パラリンピック委員会の河合純一委員長。競泳選手としてパラリンピック6大会で金メダル5個を含む計21個のメダルを獲得した同氏と全3回で議論する。今回は中編。(取材・構成=長島 恭子)
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井本「続いて日本パラリンピック委員会(JPC)加盟競技団体の女性役員の割合、つまりガバナンスのところについてお聞きします。東京オリンピック・パラリンピック後、JPC加盟競技団体の役員のうち、女性の割合は、理事で30.2%、役職者(会長・理事長)では16.7%というデータが発表されました。この結果をどのように感じられましたか?」
河合「まずまずの数値ではありますが、(2019年に設けられた)ガバナンスコードの目標値の4割には届いてないので、道半ばだとは思っています」
井本「そうですか。私は3割という数値を聞き、意外と高いと思いました。JOC(日本オリンピック委員会)加盟競技団体の女性理事割合は22%ですから」
河合「その背景には過去のパラスポーツの位置づけがあると思います。東京オリパラ開催が決まる前まで、日本のパラ競技は本当に日が当たりませんでした。『スポーツ』ではなく『福祉』の世界でしたし、各競技団体や大会の運営も、ほとんどが手弁当。関わって下さる人たちの心意気、ボランティア精神によって、活動が支えられていました。そして、当時、強い想いを持って活動に関わっていただいた方は、女性が多かった。そういった歴史的背景が大きく影響していると思います」
井本「なるほど。ガバナンスコードのおかげで3割に増えたのではなく、もともと女性が多く関わってきたからこその数値、と見た方がいいんですね。確かに、福祉の世界で働く方は女性が多い印象があります」
河合「そうです。そして『もともと女性が多いのはなぜか』も、しっかり考えなければいけません。実は国際パラリンピック委員会(IPC)も、女性の職員がすごく多いんですよ」
井本「それは女性が働きやすい、力を発揮できる分野だからではない、ということでしょうか」
河合「もちろん、適性もありますが、収入面が少なからず影響しているだろうと言われています。私たちは仕事を選ぶ際、対価が高いか低いかも当然、選択条件の一つになりますよね。しかし、パラの世界は十分な収入が得られないため、男性が家計を支えられないため、キャリアとして選びにくい。その結果、女性が多くなる、とも言われています。本来、仕事で得られる収入は、性差があるべきではないはずなのですが……。ですから、意思決定層を占める女性の割合が高いから、ジェンダーバランスが取れている、という発想もちょっと安易だと思うのです」
井本「なるほど、女性理事3割という現状も、手放しで喜んではいられないというわけですね」