スポーツ界の女性理事登用「たとえ数合わせでも」 日本バスケ協会会長・三屋裕子の信念
競泳の元五輪代表選手で、引退後は国連児童基金(ユニセフ)の職員や一般社団法人「SDGs in Sports」代表としてスポーツ界の多様性やSDGs推進の活動をしている井本直歩子さんの「THE ANSWER」対談連載。毎回、スポーツ界の要人、選手、指導者、専門家らを迎え、「スポーツとジェンダー」をテーマとして、様々な視点で“これまで”と“これから”を語る。第3回のゲストは日本の中央競技団体唯一の女性会長である三屋裕子さん(日本バスケットボール協会会長)。バレーボールの選手引退後のキャリアやスポーツ界の女性リーダー育成について、お互いの考えを交わした。(取材・構成=長島 恭子)
連載第3回「競泳アトランタ五輪代表・井本直歩子×日本バスケ協会会長・三屋裕子」後編
競泳の元五輪代表選手で、引退後は国連児童基金(ユニセフ)の職員や一般社団法人「SDGs in Sports」代表としてスポーツ界の多様性やSDGs推進の活動をしている井本直歩子さんの「THE ANSWER」対談連載。毎回、スポーツ界の要人、選手、指導者、専門家らを迎え、「スポーツとジェンダー」をテーマとして、様々な視点で“これまで”と“これから”を語る。第3回のゲストは日本の中央競技団体唯一の女性会長である三屋裕子さん(日本バスケットボール協会会長)。バレーボールの選手引退後のキャリアやスポーツ界の女性リーダー育成について、お互いの考えを交わした。(取材・構成=長島 恭子)
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井本「性別が全てではありませんが、多くの場合、スポーツ界の男性は同質・同じ文化のなかで育ち、同じ価値観を共有しています。そんななかで、少数派の女性が声を上げることはとても大変です。三屋さんはこれまで、スポーツ界におけるジェンダーの壁を感じられたことはありますか?」
三屋「いーっぱいありますよ。『思うことは何でも言ってください!』と言われたので、『では遠慮なく』と意見すると、嫌がられたり省かれたりね。それと、『三屋さんってスポーツしかやってこなかった割に、いい意見言うよね』と、ものすごーく理解があるように言われます。多分、その方からすると、すごい褒め言葉なんですよね。『女性』や『スポーツ選手』の割には、というその人の根底に脈々とあるものは、いくらこちらが頑張っても変えられない」
井本「やっと会議の場に呼ばれたと思ったら、『是非、女性らしい意見を』と求められたりしますよね。対等に見ていない。三屋さん世代の男性は、かなりまだジェンダーバイアスを持っていると感じますか?」
三屋「持っています。今でも、『子どもを保育園や幼稚園に行かせるのはかわいそう』と言われる方もいて、ビックリします。女性は結婚したら、出産をしたら、家にいるのが当たり前。子どもは小学生に上がるまで、母の手で育てるのが当然だと。若い男性でもジェンダーバイアスを持っている方はいますよ。ある勉強会でも『女性の社会活躍を』という議論をしたのですが、30代の男性の発言内容は、綺麗事ばかりでしっくりこない。聞いてみると、彼らは身近に、結婚・出産後、社会に出て働いている女性がいなかったんです。それで、ああ、この人たちには働く女性のイメージがないから、私は共感できないのだなと思いました」
井本「だからこそ、意思決定層の多様性は重要です。JBAでは積極的に女性理事を増やしていると聞きましたが、すでに何らかの変化を実感していますか?」
三屋「ガバナンスコード対応もあり、一昨年から女性理事登用の検討を行って、昨年の役員選任のタイミングから女性理事の登用が増えたばかりです。ですから、人数は増えたものの、まだ、ほとんどの方が1期目ですし、これから活躍いただくことを期待している段階ではあります。
また、都道府県バスケットボール協会の専務理事が集まる全国専務理事会の話ですが、会議の出席者を見ると、今でも女性は2、3人しかいません。47都道府県もあるのに、トップの組織にそれだけの女性しかいないのは、学校の先生がボランティアで回しているという構造的な問題が理由ではないかと考えています。全国区で考えると、各都道府県が『うちは女性のトップを登用するぞ』と動かないと、状況を変えるのは難しいかもしれません」
井本「一方、理事になった女性たちに話を聞くと、『自分は数合わせで入れられたのでは』と感じている方が結構います」