女性アスリートの自己肯定感が低いのはなぜか 女子サッカーWEリーグが持つ社会的意義
女性アスリートはなぜ自己肯定感が低いのか
井本「それはすごいですね。ミーティングや研修で踏んだプロセスが活きている。『女の子』『子ども』のために、から始まり、最終的には『すべての人へ』という言葉が出てきたことが深いですね。選手たちが、WEリーグの理念をきちんと理解していることがわかります」
岡島「当初はジェンダーの専門家の話を聞いても、『理解できない』という選手の声が多かったんです。でも、蓋を開けてみればジェンダーの理解がちゃんとできていた」
井本「日本のスポーツ界で、これほど運営側と選手とが最初から一緒に作り上げていくというのは、非常に珍しいのではないでしょうか。私もユニセフの仕事で災害の復興や難民の受け入れで赴任した先で仕事をする際、現地の子ども、ユース世代と一緒に取り組むことを重視しているんです。
彼らに任せることで、オーナーシップが生まれ、彼ら、彼女らが自発的に取り組める素晴らしいものが生まれる。やはり当事者がプロセスを踏むことは、ものすごく重要ですよね」
岡島「私が感心したのは、コミュニティへの『何々』に『愛(情)を持って』、サポーターへの『何々』には『ワクワクする週末を』という言葉が出てきたことです。『愛』とか『ワクワク』という言葉は、男子からはなかなか出てこないのではないかと。
クレドは選手自身の言葉であり、選手たちが自分たちで作った感がとってもある。選手たちには全員、クレドを印字したカードを常に携帯してもらっています」
井本「先ほど、WEリーグ開幕をアナウンスした当初は、選手たちにプロとしての自信がなかったという話をされていました。岡島さんがよくおっしゃっていることですが、そもそも女性アスリートはなぜ自己肯定感が低いのでしょうか」
岡島「女子サッカーに関して言うと、一つは女子チームのいくつかは、Jリーグ傘下として存在している、という構造の問題が挙げられます。中には、『自分たちは男子チームが稼いだお金でサッカーをやらせてもらっているんだ』という気持ちになってしまう女子選手もいます。
また、女子選手の指導経験がある男性指導者が少ない点も挙げられます。男性の指導者は男子スポーツの世界で生きてきたうえ、ほとんどの方が男子の指導をしてきています。例えば、男子と同じ距離を蹴れないと『こんなこともできないのか?』という気持ちになり、それが態度に出たり、口に出たりする。
女子の選手はそれを受けて、『あぁ、私たちは男子と比べてできないんだ』『だから男子と比べて稼げないんだ』と思わされてしまうのです」
井本「なるほど。常に男性と比較されてしまうと、なかなか自己肯定感が育たないんですね。その辺りの指導者の意識改革も重要ですね」
(23日掲載の中編に続く)
■岡島喜久子
東京都出身。中2で男子サッカー部に入部。その後、東京・渋谷区を拠点に活動する女子サッカーチーム、FCジンナン入り。1977年、中国で開催された国際大会「第2回AFC女子選手権」にFCジンナンの一員として参加。1979年の日本女子サッカー連盟設立時に初代理事メンバーに就任。1989年に海外転勤を機に選手を引退した。早大卒業後から長年、現JPモルガン・チェース銀行、米国のメリルリンチなど日米の金融業界に従事。2020年7月、WEリーグの初代チェアに就任した。
■井本直歩子
東京都出身。3歳から水泳を始める。近大附中2年時、1990年北京アジア大会に最年少で出場し、50m自由形で銅メダルを獲得。1994年広島アジア大会では同種目で優勝する。1996年、アトランタ五輪4×200mリレーで4位入賞。2000年シドニー五輪代表選考会で落選し、現役引退。スポーツライター、参議院議員の秘書を務めた後、国際協力機構(JICA)を経て、2007年から国連児童基金(ユニセフ)職員となる。JICAではシエラレオネ、ルワンダなどで平和構築支援に、ユニセフではスリランカ、ハイチ、フィリピン、マリ、ギリシャで教育支援に従事。2021年1月、ユニセフを休職して帰国。3月、東京2020組織委員会ジェンダー平等推進チームアドバイザーに就任。6月、社団法人「SDGs in Sports」を立ち上げ、アスリートやスポーツ関係者の勉強会を実施している。
(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)