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出産した女性アスリートの実体験 夜中の授乳なく「すごく親孝行」、困るのは合宿中の預け先――レスリング・金城梨紗子

金城にとって生後9か月の愛娘が競技を続けるモチベーションだ【写真:安藤未優】
金城にとって生後9か月の愛娘が競技を続けるモチベーションだ【写真:安藤未優】

子どもがいると「予測できないことばかり…それも含めて面白いなって」

 さて、全日本優勝後、金城の2026年パリ五輪出場を期待する声がにわかに高まり始めた。「五輪3連覇」「ママでも金」。メディアにも、そんな見出しが躍るようになった。

 自身も8歳でレスリングを始めると、五輪出場の夢を見るようになった。成長するにつれ「五輪出場」「五輪で金メダル」は現実的な目標になり、結果を求めてひたすら努力した。

 しかし、レスリングを続けて20年。子どもが産まれた今、目指すものは変わってきている。

「どうしたら五輪に出られるかだけを必死に考え、24時間過ごした時間も、いい思い出です。でも、今の方が違った意味で楽しい。子どもがいると、毎日何が起こるかわからないし、どこで予定が崩れるかもわからない。予測できないことばかりだけれど、それも含めてなんか面白いなって感じています。

 もちろん、結果を出すに越したことはない。でも、今の私は結果だけにこだわる気持ちはすごく減り、それまでの過程を楽しむようになりました。自分は何ができるのか、どこまでできるのか。その挑戦を毎日積み重ねて、結果、何かに繋がればいいと思います。

 目指す結果はあるけれど、そこまでの過程に、挑戦することにすごい価値がある。だから今の私にとって、五輪は最終地点や目標地点ではなく、レスリングを続けていたら、途中にあった、みたいな感じです」

 自分に起こる全てのことには、何らかの意味があると思っている。今では五輪後にすぐ子どもが授かったことも、競技に戻るためだったのでは、と考えるようになった。

「そう考えると体の変化に限らず、これからどうなっていくんやろう!? ってすべてが面白い。もしかしたら、パリ五輪後も、試合に出ているかもしれない。レスリング、好きだし!」

 ちょうどインタビューの最後の質問を終えると、それまでおとなしくスタッフに抱っこされていた長女がぐずりだした。「どうした~? お腹すいてきたか!」。金城のひざ上に戻り、おやつをほおばる。とたんにニッコニコの笑顔になり、両手をパチパチと叩きながら全身を弾ませた。

「練習で疲れたり、うまくいかないことがあったりしても、終わって帰宅して、子どもを抱っこすると元気になります。今はまだ、この子もママがレスリングしているなんて、わからないじゃないですか。だけど、娘が大きくなった時に、試合の映像や取材された記事などを見て、私がちっちゃい時に、ママ頑張ってたんやなぁとか思ってくれたらいい。その気持ちが、競技を続けるモチベーションになっています」

【レスリング・金城梨紗子が「新しい一歩を踏み出す時に大切にしていること」】

「『やらない後悔よりやる後悔』という言葉がありますが、私は『できるか、できないか」ではなく、『やりたいか、やりたくないか』の直観を大事にしています。実は4月から選手を続けながら、敦賀気比高校レスリング部の特別顧問となり、レスリングの指導をしたり、市内や県内の子供たちに、自分の経験を伝えたりする役目を引き受けることにしました。それも、お話を頂いたときに『やりたい!』と直感。二つ返事で引き受けました。

『やりたい』と思ったら行動する。そして、難しい環境や状況下でも、どうやったらやりたいこと少しでもできるのかを具体的に考える。別に、100%できる必要はありません。それこそ私は子どもがいることで、東京五輪前のように生活の100%を、レスリングに費やすことはできていません。けれど、半分はできています。完璧にやることを求めなくていい。それよりもポジティブに取り組めばきっと、周りも何らかの形で助けてくれると思います」

※「THE ANSWER」では今回の企画に協力いただいた皆さんに「新しい一歩を踏み出す時に大切にしていること」や、「今『変わりたい』と考えている女性へのメッセージ」を聞き、発信しています。

(THE ANSWER的 国際女性ウィーク3日目は「男性社会で戦う女性アスリート」、競馬・藤田菜七子が登場)

■金城 梨紗子 / Risako Kinjyo

 旧姓・川井梨紗子。1994年11月21日生まれ。石川県出身。小学2年から母・初江さんがコーチを務めるクラブでレスリングを始める。至学館大在学中の2016年リオデジャネイロ五輪63キロ級で金メダルを獲得。続く2021年の東京五輪57kg級で金メダルを獲得し、妹・友香子とともに姉妹優勝を果たした。2021年8月、同じレスリング選手だった金城希龍さんとの結婚を公表。2022年5月10日に第1子となる長女を出産。10月、1年2か月ぶりの試合復帰となった全日本女子オープン選手権で59キロ級で優勝。続く12月の全日本選手権でも、同じく59キロ級で出場し、5年ぶり4度目の優勝を決めた。2017から世界選手権3連覇。サントリービバレッジソリューション所属。

<3月5日「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」オンラインイベント開催>

 オンラインイベント「女性アスリートのカラダの学校」を3月5日に開催する。アスリートや専門家が女性アスリートのコンディショニングについて議論を交わしながら、参加者の質問にも答える。第1部は「月経とコンディショニング」をテーマにスポーツクライミング東京五輪銅メダリスト・野口啓代さんをゲストに迎え、月経周期を考慮したコンディショニングを研究する日体大・須永美歌子教授が講師を担当。第2部は「食事と体重管理」をテーマに体操でリオデジャネイロ、東京五輪2大会連続団体入賞の杉原愛子さんをゲストに迎え、公認スポーツ栄養士の橋本玲子氏が講師を担当。1、2部ともに月経など女性アスリートの課題を発信している元競泳日本代表・伊藤華英さんがMCを務める。参加無料。応募は「THE ANSWER」公式サイトから。詳細(https://the-ans.jp/news/304085/

(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)


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長島 恭子

編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)など。

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