「月経の話」はタブーの日本 五輪選手と産婦人科医が「女性と思春期」の今を考える
世の中が「月経の話」をタブー視しすぎている現状
江夏「水泳のようにある程度、体重、体脂肪がある競技は月経が止まりにくいですね。BMI(肥満度を示す体格指数)で『17.5』を下回ると過半数の人で月経が止まると言われています。一方、月経が止まらない場合、月経痛はもちろん、PMS(月経前症候群)といって、月経前の1~2週間イライラしたり、体がむくんだり、食欲が増えたり、気分が落ち込んだり……という体調不良が続くなど、一般女性と同じようにスポーツ選手も悩んでいると、だんだん分かってきました。
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産婦人科自体もこれまでは妊娠・出産を扱う産科、子宮や卵巣の腫瘍、そして不妊治療を3本柱として扱ってきました。ここ10年ほどで“第4の柱”として『女性ヘルスケア』といって女性の健康を予防医学の観点から考えようという動きがようやく出てきました。そこに東京五輪開催が決まったことも追い風になり、女性アスリートがそんなに困っているなら何とかしなきゃ、という動きが出てきたのです。だから、それまでは選手がどんなに悩んで病院に行っても『そんなに走れば止まるよね』で話が終わっていたんです。そして、一般的に月経痛で受診するという感覚もなかった。
さすがに無月経になると受診する選手は結構いたのですが、ホルモン剤を使って治療しようと処方しても、所属チームに帰ったら『ホルモン剤は使うな』と指導者に言われて受診が途絶えたりして、どうしたらいいんだ……という状態が続いてきました。ただ、日本水泳連盟では比較的早く、2000年頃からコーチ研修会などで対応の必要性について話をさせてもらっていました」
伊藤「でも、当時は興味のある選手だけがやる、という感じでしたよね」
江夏「講習会で話を聞いたコーチが、チームに戻って選手のコンディショニングのために月経の状態を把握しようとしたら『セクハラだ』と保護者から校長室に怒鳴り込まれたとも聞きました。未だにそういう感覚はありますね。世の中自体が月経の話をタブー視しすぎていて、その延長上にスポーツもある感じ。一気に動き始めたところで声を上げてくれる選手が出始めました。伊藤さんもその一人です」
――伊藤さんは現役時代、競技をするなかで月経の話題がタブー視されると感じていましたか。
伊藤「水泳はちょっと特殊かもしれないですね。常に男女一緒に練習する競技性もあり、互いに月経のことを除いても、調子の良い悪いはチーム内ですごく敏感になります。だから、男子選手も知らず知らずのうちに、私の月経の日を知るということもありました。イライラしているから話しかけちゃいけないとかあったみたいで。私自身も話しちゃいけないとは思わないタイプなので、チーム内でもオープンに言っていました。
ただ、女子選手だけ、男子選手だけと分かれている競技となると異性に対する免疫がなくて、常に女性はかわいいもの、男性は頼りになるものという感覚が生まれてしまいます。一緒にいればいるほど、イメージと違うことが分かってくる。小さい時からずっと男女一緒に練習を行っているのが水泳だから。あまり言ってはいけないと思っていなかった、というのは育ちのなかでありますね」