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「男女の悪口の言い合いにしないで」 性的画像被害を経験、伊藤華英が語る問題の本質

伊藤さんが見る性的画像問題の本質とは【写真:松橋晶子】
伊藤さんが見る性的画像問題の本質とは【写真:松橋晶子】

この問題に見る本質「男性は女性を、女性は男性を理解しなければいけない」

 性的画像問題が注目を浴びて以降、様々な視点で議論が起きている。前述の通り、アスリート側の意識、競技団体のサポート、ウェアと肌の露出のバランスなど、あらゆる観点から意見が上がっている。

 もちろん、そのどれもが大切で必要ではあるが、この問題の本質はどこにあると考えるか。伊藤さんは「男性と女性の悪口の言い合いになってほしくない」とし、男女の立場に視野を広げ、社会構造に踏み込む。

「男性も女性も、どちらもいなければ生きていけません。ただ、それぞれに異なる歴史があることは理解すべきと思います。女性に関していえば、男性優位で社会進出が阻まれてきたこと。身体的差異からすると弱者ではあります。今、私も『女性なのに働いてすごいね』と男性から言われますが、褒め言葉のつもりでも、そうは聞こえない。逆に『あなたもお子さんいますよね、男性も頑張っているじゃないですか』と思う。もちろん、体が違うので性差が出ないわけではありませんが、男性だからこう、女性なのにこう、という常識や認識が少しずつ変わっていくといいなと思います。

 その中で、大切だと思うのは、お互いにリスペクトを持ち続けること。現役時代、男子選手に『なんで男性は女性の気持ちが分からないの?』と聞いたら『女性たちだって、俺たちのこと分からないだろ』と言われ、その通りだと思いました。男性は女性を理解しないといけないし、それは女性も一緒で、男性を理解しないといけない。今回、声が上がっている性的画像問題もそうで、言い合うことは大切ですが、前提にリスペクトがないと対立してバラバラになるだけ。それが乗り越えられれば、悪いものは悪いとお互いに協力して前に進んでいける社会になる気がしています」

 その上で「フェミニズムというと日本では『女性がわがままを言っている』と取られる印象がまだ強くあります。決して、そうではなくてマイノリティ(少数派)とマジョリティ(多数派)が合わさり、男性も女性も一緒に物事に取り組めるようになってほしい」と訴えた。

 性的画像問題の解決に向けては、競技会場における撮影の規制などの個々のアイデアが挙がっている。伊藤さんは「根本的な話ですが、各団体の理事を半分くらい女性にしないと変わらないことがあると思います」と投げかける。

「例えば、生理の問題にしても女性が増えれば当然、意見が出る。男性には分からない問題。もちろん、女性が男性の問題を身をもって分かるかといえば同じですが、男性の問題は女性にシェアされます。しかし、女性はその場にいないから、発言ができない。だから、意思決定の場に女性が増えてほしい。加えて、JOCも全競技に『アスリート委員』を作る方針を掲げています。選手会・労働組合のようになりますが、ダメなものはダメということを言える、男女のアスリートがお互いを知る環境作りがすごく大切だと思います」
 
 伊藤さんは27歳で引退後、大学院でスポーツ心理学を専攻し、博士号を取得。19年に結婚し、長男が誕生した。五輪と生理が重なった経験から、現在は女性アスリートの月経の知識、悩みについて選手が共有できるプラットフォーム作りに励み、アスリートのセカンドキャリアについての課題にも取り組んでいる。

「女性が男性のようになれと言われ、過酷に追い込んだことの報酬が金メダルにある半面、代償が体の不調となったら切ない。女性としての体を自分で知ることで競技力も向上し、人生そのものを考えることにつながる。加えて、『アスリートって、素晴らしいよね』と社会で思われる人を増やすこと。アスリートは、競技に打ち込むあまり自分が何も知らず、プライドもあり、分からないと言えない、もろい存在でもある。そういう人がフラットに学び、聞け、共有できる場所を作る。一人一人がハッピーなセカンドキャリアを送ることができれば、その競技を目指す子供もきっと増えるので」

 7人のアスリートが7つの視点で語った女性アスリートの今とこれから。その一つ一つが、未来を変えるメッセージとなる。

【「性的画像問題」について語った伊藤華英さんが未来に望む「女性アスリートのニューノーマル」】

「アスリートの結婚・出産が競技の足かせではなく、競技力が上がる社会になってほしいです。私も引退後に『産休・育休』を経験しましたが、(『休』という文字にあるように)休んでいる感じにしてほしくない。子供がいることがマイナスにならない社会がうれしいし、子育てを女性だけがやることにしてほしくない。『結婚=恋愛していたんでしょ』という見方じゃなく、結婚してもまた競技をしていいと思うし、結婚と引退が『=』という価値観はなくなってほしい。男女で関係なく、結婚をしたり、子育てをしたりという環境になれば、スポーツももっと発展していく気がしています」

■伊藤 華英 / Hanae Ito

 1985年1月18日生まれ、埼玉県出身。東京成徳大高―日大―セントラルスポーツ。背泳ぎで08年北京五輪100メートル8位、10年に自由形に転向し、12年ロンドン五輪出場。同年秋に引退した。引退後は早大大学院スポーツ科学研究科に進学、順大スポーツ健康科学部で博士号取得。日大非常勤講師も務める。17年から東京五輪組織委戦略広報課の担当係長に就任。オリンピアンが同職員になるのは4人目だった。19年1月に一般男性と結婚、第1子となる長男が誕生した。「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」では14日に行われるオンラインイベントにも出演する。

(終わり)

■「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」インタビュー登場者

1日目「女性アスリートと生理」 陸上・新谷仁美
2日目「女性アスリートとLGBT」 バレーボール・滝沢ななえ
3日目「女性アスリートと摂食障害」 フィギュアスケート・鈴木明子
4日目「女性アスリートと恋愛」 マラソン・下門美春
5日目「女性アスリートと出産」 陸上・寺田明日香
6日目「女性アスリートと膝の怪我」 サッカー・永里亜紗乃
7日目「女性アスリートと性的画像問題」 競泳・伊藤華英

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)


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