「男性の体と違うこと受け入れて」 実は女性に多い膝の怪我、サッカー永里亜紗乃の提言
「女性アスリートはもう少し自分の体を知って」
永里さんは26歳で無理をやめたから、健康を保ち、充実した今がある。「引退した後の人生の方が長い」と言う大人たちのセリフは正しいのかもしれない。でも、私は中学で、高校で競技を辞める。そんな選手が「一生怪我が残ってもいいから、この一瞬に全てを懸けたい」と訴えてきたらどうするのか。
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正解の見えない難題。永里さんは一瞬だけ間をおいた。「一人ひとりに合ったトレーニングを」と説くからこそ、本気で向き合った意見だった。
「先のことを考えずに今を判断してはいけないと思います。でも、80年くらいの人生を考えた時、それでも今が一番大事だと判断したのであれば、その瞬間に全てを懸けた方がいい。それなら後悔なく痛みと向き合える。『ただ、代償はデカいぞ』って言う必要もあります。だから、周りの大人は隠さないでしっかり全てを教えてあげる。このまま続けたらどうなる可能性が高いか。その上で最後に自分で判断してもらうのが大事だと思います」
もし、その選手が自分の娘だったらどうしますか。意地悪な質問にも、親目線となった永里さんの考えは変わらない。
「思う存分やりなさいって言いますね。究極、いつ死ぬかなんてわからないじゃないですか。だったら、もう後悔ないように。ただ、『こうなるかもよ』というのはしっかり言ってあげたい」
アスリートに怪我はつきものだと言われる。だが、苦しい日々が少ないに越したことはない。今もなお膝の痛みと付き合い続ける永里さんは、幅広い世代の女性アスリートたちに“ちょっとした発信”を願った。
「女性は男性より下に見られがちな時もありますよね。なぜ、それがなくならないのか。どうしたらもっとしっかり一人のアスリートとして見てもらえるのか。それを考えた時、女性アスリートはもう少し自分の体を知って、男性と違うということを受け入れて、しっかり自分で発信していかない限りは、周りの見る目も変わらないんじゃないかなと思います。
女性の体はこうだ、女性にはいろんな問題があるんだ、ということを発信していかないと、サポートしてくれる人も、どういう問題がこの選手に起きているのかわからないと思います。言われたことは一生懸命やるけど、言われないとやれない人がまだまだ多い。女性アスリート側も“言われ待ち”ではなく、逆にトレーナーに質問するとか、この動きを改善したいとか、もっと自分から発信してトレーニングを変えていけるような女性アスリートになっていってほしい」
強い意思の込められた元日本代表の言葉を聞くと、少し大きな要求にも感じるが、別に問題提起や一石を投じることを求めているわけじゃない。周囲の大人も良い距離感、信頼関係を築いていく努力が必要。一方、プロや中高生など競技レベルに関わらず、選手自身も「この練習は何のために?」とちょっとした疑問を言えるようになってほしいだけだ。
「普段の会話でもう少しフランクに聞けることが大事かなって。自分が正しい、間違っているとかではなく、まず一つ一つに疑問を持つ。それを質問で伝える。それって競技レベルは関係ないですよね。『この雰囲気が普通だよ』となってくれれば、トレーナーも互いにレベルアップできそう。だから、まず疑問を持つところからです」
まずは自分から。今を生きる女性アスリートの一歩が、未来を作る。
【「膝の怪我」について語った永里亜紗乃さんが未来に望む「女性アスリートのニューノーマル」】
「競技生活の時間はある程度決まっていると思うので、何歳くらいまでやるのか、なんとなくでいいから考えておいた方がいいと思います。出産したくなった時、何歳まで現役を続けるのか想像していなければ、『いつ産むの?』とタイミングがどんどんわからなくなっていく。それでアスリートは高齢出産の人が多いと思うんですね。現役の途中で産むという選択も、もっともっと増えてもいい。そういう選択ができるよう、イメージでいいので何歳くらいまで競技をやって、これくらいに出産できたらいいなと。なんとなく想像して日々を過ごしていった方が、もう少しスムーズにいくと思います」
■永里亜紗乃 / Asano Nagasato
1989年1月24日、神奈川県厚木市生まれ。ポジションはFW。兄・源気、姉・優季もサッカー選手。各年代で日本代表を経験し、2007年にユースから日テレ・ベレーザに昇格。12年なでしこリーグカップでは6試合4得点でMVPを獲得し、優勝に貢献。リーグでは18試合19得点でベストイレブンと敢闘賞を受賞。13年からドイツ・ブンデスリーガ1部の1.FFCトゥルビネ・ポツダムへ移籍。15年カナダW杯のエクアドル戦では姉妹同時出場。日本代表では通算11試合で1得点。16年4月に引退し、現在は解説などで活動している。
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(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)