フィギュア選手の生理問題 鈴木明子、10代選手への助言「選手である前に人間なんだよ」
なくしたい「生理は悪」の空気、「大人が間違った知識で追い詰めないで」と提言
私が思春期の頃、スケートの現場ではなんとなく「生理」は「来たら困るもの」という空気感を勝手に感じてしまっていました。私自身も生理が来ると、「コーチから『追い込めていないんじゃないか?』って思われてしまう」と感じていた。そんなこと、実際に言われたことはなかったのに、です。
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女性なら成長すれば初経を迎えるし、毎月来るのも当然なのに、「追い込めてないのかも」「太ってしまうかも」と、生理に対して恐怖心を抱いてしまう。今なら、ものすごくゆがんだ認識だとわかります。でも、選手たちは皆、同じようなイメージが刷り込まれていたので、当時は疑問にさえ思いませんでした。
自分たちの生理に対する認識はおかしいのかも、とちょっと気づいたのは、20代後半になってからです。その頃、スケート以外の友達から「結婚をする」「出産をする」という報告や話をする機会も増えていたなか、「選手を辞めた後、私は女性として当たり前に生きることができるのだろうか?」という怖さをふと、感じました。
スケーターとしての、自分の競技者としての終わりが見え始めたときに初めて、その先のことを考えられたんです。
「そんな普通のことに、どうして10代で気づけなかったの?」と、思われるかもしれません。でも、これは本当に難しい問題。競技に夢中になっている10代の選手たちに、「将来のことをもっと考えなさい」と言ったとしても、もう目の前のことだけでいっぱいで、考えられません。だって、「今できたらいい」という気持ちがものすごく強いから。
ほかのスポーツと同様に、フィギュアスケートも若年齢化が進んでおり、バンクーバーから平昌五輪までの3大会とも、女子の金メダリストは10代でした。女子でもトリプルアクセルや4回転ジャンプを跳ぶ選手たちが増え、SNSでは10代前半でジャンプをパワフルに跳ぶ選手たちの動画が上がっています。
知らず知らずのうちに、体が「少女」から「女性」へ成長する前に「とにかく跳べないと、世界で戦えない」と焦り、「成長したら跳べなくなるのではないか」という恐怖心から、成長自体をプレッシャーに感じ、どんどん追い込まれていってしまうのです。
でも、選手として生きるよりも、その後の人生のほうが遥かに長いですよね。
アスリートたちも、選手である前に一人の人間です。親やコーチなど身近な大人たちが、本人が見えていない分、体に関する正しい知識を共有し、きちんとした認識を持って選手たちに接することが大切ではないでしょうか。そうすることで、「生理は悪」という現場の空気感がなくなることにつながるし、選手たちが間違った知識によって追い詰められることもなくなると思います。
選手たちに伝えてもなかなか伝わらない、理解はできないかもしれませんが、とにかく伝え続けることが大事。「大人になる過程で起きる体の変化は、あなたが生きていくうえで、すごく大切でポジティブなことなんだよ」「生理が止まるのはおかしなことなんだよ」と伝えていかないと、私のようにずっと、生理が来ることを、ものすごくネガティブに感じ取ってしまうだろうな、喜べないだろうな、と思うからです。
無月経などを経験しても大人になり、出産される方はいます。でも、正しい知識がなかったことで、人としての幸せを、一つ諦めることだってあるかもしれません。「あのときちゃんと治療しておけば」「もっと気を付けておけば」と、口にできない想いを抱えている人も、どこかにいると思うのです。
もしそうなったら、競技を真剣に取り組んできたことさえ、後悔になってしまう。当時は頑張った、オリンピックにもいけた。でも、選手時代のある瞬間が一番輝けていて、引退後、間違った認識のせいで苦しんでしまうとすれば、何だかそれは、人として幸せではない、と感じてしまいます。