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男性より女性アスリートに膝の故障が多いワケ トレーニングに考慮されない性差の課題

女性アスリートは男性アスリートに比べて「膝のケガ」はなぜ多い?

Qアングルの正常値は男性と比べ女性のほうが大きい。これにより、運動時に膝にかかる負荷も大きくなる【イラスト:野口佳大】

 しかし、あらゆるトレーニングプログラムは、個々の体に応じて組み立てられます。ということは、女性は女性の特性に合ったトレーニングを行うべきであり、そうすることで、ケガの予防やパフォーマンスの向上につながると考えます。

 例えば、女性アスリートは、男性アスリートに比べて「膝のケガ」が多いことはご存知でしょうか。これは骨盤の大きさに男女差があり、女性は動作によっては膝に大きな負担がかかることが理由です。

 骨盤と膝の位置関係は、「Qアングル」で測定することができます。

「Qアングル」とは、骨盤と膝を結んだ角度のこと(※)。女性は男性に比べると骨盤幅が広く、男性よりもQアングルが大きい。そのため、ジャンプの着地時や下半身で緩急をくり返す動き、切り返す動きなどの際、膝が内側に入りやすくなります。すると、膝周りにかかる負荷が大きくなり、膝の前十字靭帯損傷や膝蓋骨脱臼につながります。

 このQアングルの問題にはイギリスのサッカー女子代表が積極的に取り組み、女性の体の特性を考慮したトレーニングによって強化を成功させています。このように「女性の場合はどうすればよいのか?」を考えることも大事です。

 男性と女性とでは、骨格や筋肉特性も異なりますし、同じ運動をした場合でも体の反応が異なることもあります。月経に伴う周期的な体調の変化もその一つ。これらのように、見た目だけでなく、運動の刺激に対して体のなかで起こる反応にも、本当に様々な性差が生じることは、いろいろな研究によって報告されています。

 まだ具体的な種目やプログラムを提案できる段階ではありませんが、近年は女性アスリートの体の研究も進んでいます。今後、女性の体の特性を踏まえたトレーニングやコンディショニングが確立されればきっと、世界の女性アスリートたちはさらに素晴らしいパフォーマンスを発揮できる、と考えるのです。

(※)膝蓋骨の中央点と、上前腸骨棘および脛骨粗面に引いた2本の線のなす角を指す。

(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)


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須永 美歌子

日本体育大学教授、博士(医学)。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本陸上競技連盟科学委員、日本体力医学会理事。運動時生理反応の男女差や月経周期の影響を考慮し、女性のための効率的なコンディショニング法やトレーニングプログラムの開発を目指し研究に取り組む。大学・大学院で教鞭を執るほか、専門の運動生理学、トレーニング科学の見地から、女性トップアスリートやコーチを指導。著書に『女性アスリートの教科書』(主婦の友社)、『1から学ぶスポーツ生理学』(ナップ)

長島 恭子

編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)など。

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