野球の本質を語ったガーナの少年 日本人にも衝撃を与えた、アフリカ27年間の普及活動
11年後に見たガーナ野球の光景「野球には人を育てる力がある」
帰国後、普及活動に取り組むNPO法人「アフリカ野球友の会(現J-ABS)」を立ち上げた。ガーナを離れて11年。再び現地に足を運ぶと2008年の北京五輪を最後に野球が実施競技からはずれ、アフリカで野球に取り組む若者たちのモチベーションがなくなっていた。
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そこで、ガーナで日本の甲子園大会のような全国大会をつくり、選手たちの目標をつくることにし、ガーナ全国への普及活動を行うプロジェクトを開始した。手始めに首都と近郊都市の学校全10校にコーチを巡回指導し、野球を普及させる活動から始めた。
1年後、友成さんが各校にヒアリング調査に行くと、校長の言葉に驚かされた。
「ミスター・トモナリ、野球をやっている子どもたちは、みんな勉強の成績が上がるんだよ」
友成さんは思わず、「日本では逆ですけど」と笑うほど。グラウンドでリーダーシップを取り、規律や社会性を学ぶと、それが教室でも再現されるという。しかも、どの学校に聞いても結果は同じだった。
そして、グラウンドに行くと、さらに驚きの光景が待っていた。
「キャッチボール!」の号令後、一目散に駆け出した彼らは2列で等間隔に並んだのだ。悪送球をすれば謝り、ボールを取りに行った子は相手を励ます。試合は礼から始まっていた。
かつてガーナで野球を教え始めた頃に見た「アフリカあるある」は存在しない。この時の指導者は、友成さんがガーナ監督時代の教え子に指導を受けた“孫”の世代。グラウンドを駆け回る子どもたちは、友成さんからすれば“ひ孫”だった。
「野球で大切なことを、孫がひ孫に教えていました。スポーツはこうやって教えが伝わっていくんだなって。学校の授業は代々伝わっていくものではないですよね。先生が伝えないといけない。でも、スポーツは違う。習慣として伝わっていく良さがあると気づかされました。
試合前に並んで礼をするのは、日本独特の文化。ガーナでも、最初は『握手だけでいいじゃないか』と言われました。『礼は相手にリスペクトを伝えるものでしょ』と伝えれば、みんな納得してくれるんです。つまり野球というスポーツは、普及が楽しいとか、民主主義を広めるだけのものじゃない。人を育てる力があるんです」
友成さんは2012年、今度は東アフリカのタンザニアに赴任した。種から芽が出たガーナ野球は成功例。「野球をすれば勉強の成績が上がる」の売り文句で、全く野球のなかった国のセカンダリースクール(14~17歳の学校)に野球を紹介した。2014年、4校による全国大会「タンザニア甲子園大会」を開催するまでになった。
しかし、世界を見れば、2012年ロンドン五輪から野球・ソフトボールが除外されていた。2021年東京五輪だけ復活したが、世界的祭典から外されることはアフリカ野球にも大打撃。1000人以上になったガーナの野球人口も、一時期からは減少した。20年以上も普及活動に尽力した友成さん。さらなる発展のために助けを求めた相手は、背番号55をつけたあの大打者だった。
(後編「松井秀喜に助けを求めた日本人 アフリカ野球衰退の危機、職を捨てニューヨークに飛んだ」は16日配信)
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)