シュワちゃんは「最強です」 “賢い努力”で時代の先にいた「アーノルド」という神
皆に刺さる言葉で説明できる人はアーノルド以外にいない
アーノルドはこの映画のなかで、学びになることをたくさん言っています。例えば、ボディビルダーが肉体を発達させていく時に鏡を見ながらトレーニングする理由を、「優秀なボディビルダーは彫刻家と同じ考え方をする」と説明しています。
彫刻家はどこに彫りを入れたらいいアートができるか、と考えます。同じく自分たちは、肉体がより美しくなるために、どの筋肉をつけたら良いのかを見極める。その細かな部位の筋肉を盛り付けるために、トレーニングの内容や方法を考えるのだ、と。
そしてボディビルでは均整のとれた体が大事であり、ある部位に筋肉をつけたら、全体のバランスが崩れないよう、別の部分にも筋肉をつけなければいけない。彫刻家は粘土をつけるが、自分たちはトレーニングでそれを行う。この作業がとても難しいのだ、ということを話します。まさに、ボディビルの本質をついた言葉です。これを聞くと、ボディビルダーたちがどれだけ繊細に、考え抜いて体を作っているのかが分かります。
ボディビルが一部の人間にしか理解されないのは、その本質をうまく解説できていないからではないか。私は「パンピングアイアン」のアーノルドを見てそう感じました。美しい肉体を追求し、実際に構築する難しさをこれだけ的確に、皆に刺さる言葉で説明できる人は、アーノルド以外にいないと思います。
また、今やっと科学で証明されていることも、映画のなかで言っています。限界までの数回で筋肉は成長する。そこが勝者と敗者の分かれ目だ、と語るシーンがありますが、これはオールアウトの理論ですよね。結局、現代の筋トレ科学は、肉体を創り上げることに人生をかけたビルダーたちに脈々と受け継がれたトレーニング方法を科学的に検証し、裏打ちしているものが多いのです。
ボディビルの世界はアーノルド以降、より筋肉のサイズを追求する方向へと向かい、美の感覚からはどんどん外れていきます。トレーニングマシンも栄養補助食品も先端化。禁止薬物もそうだと思います。そうして現在、世界のトップビルダーの肉体はあり得ないほどどんどんデカくなり、化け物化しました。先端技術が創り上げる肉体は、人間が美しいと感じる肉体をはるかに通り越してしまったのです。