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革新的ラグビーか、底知れぬ修正力か NZ対南アフリカ、W杯4強の激闘から占う頂上決戦の行方

コリシ主将の口から溢れ出た、ニーナバーHCへの信頼

 ニュージーランドの強さについては、驚異的なボール・イン・プレーの数字を紹介したが、南アフリカに関してはイングランドを今大会初めてラインブレーク(相手防御を突破した攻撃)0回に封じるなど勝つための数値も見られた一方で、選手の言葉からはチームとしての強い絆といった抽象的な世界の中に、底知れない強さの秘訣があるように感じている。コリシ主将が、会見でジャック・ニーナバーHCについて聞かれた時、いつもは落ち着き、朴訥と語る闘将の口からは、信頼の言葉が溢れ出した。

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「(ニーナバーと出会った時)私は18歳でした。ウェスタン・プロビンス(WP/南アフリカの強豪州代表)に行くことができて、その時に出会ったのです。彼と、コーチだったラッシー(・エラスムス/代表チームディレクター、前HC)がWPアカデミーチームを訪れ、そこからチームの基盤が始まったのです」

 コリシ主将の幼年期の苦難は多く報じられているので、ここでは割愛するが、スラムの環境からシヤ少年を救ってくれたのがラグビーだった。そしてエラスムス、ニーナバーという2人のコーチとの出会いが、今の“スプリングボクス”の成功に繋がっている。

「彼らが来るたびに、自分がどういう選手なのかを見せなければならなかったので緊張もしました。でも、彼らと親しくなり、直接指導を受けるようになった。彼のことが好きなのは、フィールドで起きていることより、かなり深いところまで掘り下げていることです。私の家族と親しくなり、人間味を持って私たちと話し合ってくれる。そして今の自分があるのです。

 彼とラッシーは『凄いタックルをしろ』とは言ってこないのです。彼は、私の子供の名前を知っています。1人の人間として、私の状態がどうかを聞いてくれるのです。彼は私を1人の人間として、タウンシップ(旧黒人居住区で貧困の象徴でもあった)にいたシヤとして、私のことを気にかけてくれる。だから、私はフィールドの上で彼のために全力を尽くすんです。彼は、特に重大なゲームの時に、それぞれの選手のここまでの道のりについて話をします。ただのモノやラグビー選手としてではなく、人として知ってもらえることは特別なことです。彼は、それをこのチームにもたらす人なのです」

 選手とコーチの向き合い方、人間関係の作り方は個々に違いはあるが、難しいバランスもあるだろう。だが、ニーナバーというコーチは、選手が生まれ育ったバックグラウンドも含めて、相互理解をしっかりと深めているのだと読み取れる。

「彼(ニーナバー)は、我々の家族を近くに呼ぶことを許してくれます。チームによっては、家族の介入を許可しないこともありますが、彼は子供が走り回っている姿が大好きなんです。これは、彼が作り上げている家族のような環境なんです。苦言を言われたり苦難の時も含めて、彼とともにしてきた毎年を私は堪能してきました。どれほど楽しい時間かは、説明し切れませんけれどね。詳細への拘りが、物事を円滑にしているのです。彼は特別なコーチであり、人間であり、そして素晴らしい父親で伴侶です。私は感謝し続けるでしょう」

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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