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“剛”のフランスと“柔”のNZが好勝負 ラグビーW杯歴代屈指「美しき開幕戦」に見た優勝候補の強さ

重圧をかけるフランスに対しNZはバトルを極力回避

 ピッチを見下ろすような高さのある記者席から観た80分間は、対照的なスタイルが織りなす綾のような展開になった。“剛”のフランスに“柔”のオールブラックス――。伝統的にはボールを積極的に動かすアタックが信条の両雄だが、個々の接点にパワーで重圧をかけてくるフランスに対して、挑戦者であるニュージーランドはそのエリアでのバトルを極力回避するような戦い方を見せた。

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 起点の近くでのFW(フォワード)の肉弾戦よりも、人数が薄い外側までボールを運んで間隙を突く。前日練習で、フランスがメディアに公開した15分ほどのメニューでは、FWが密集周辺で激しくコンタクトして前に出るプレーに取り組んでいたが、オールブラックスはフランスの思惑をかわすように、より外側へとボールを運んできた。同時に、ボールを1か所に停滞させず、軌道が常に動き続けるようなスピードと展開力で勝負を挑んできた。

 フランスがハードなコンタクトで1度はボールを止めても、SH(スクラムハーフ)アーロン・スミスの巧みなパスさばきを軸にテンポを取り戻して、再びボールを展開。開始2分の先制トライも、PGでまず手堅く得点してもいい状況から速攻を仕掛けて、FB(フルバック)ボーデン・バレットの裏キックにフランス防御が対応しきれずに、ワンバウンドで捕球したWTB(ウイング)マーク・テレアが仕留めた。

 大会後には日本のトヨタヴェルブリッツ入りが決まっているため、漆黒のジャージーは今大会が見納めとなるスミスだが、世界最高の9番とも呼ばれるフランス代表のアントワーヌ・デュポンが、スクラムからパスを出そうとした瞬間にタックルで潰すなど、密集周辺での上手さ、狡さをいかんなく発揮した。

 ニュージーランドは残り20分間で13点を許して、スコア上では14点差をつけられたが、あのテンポでの球出しができるのは、スミスのパス能力だけが理由ではない。LO(ロック)サム・ホワイトロック、スコット・バレットという局地戦で激しく相手と肉弾戦を挑み、ワークレートも高い献身的な選手がチームを後押しして、オールブラックスならではのスピードを加速させた。

 そんな生きたボールを、スミスとともに決定力のあるBK(バックス)に供給し続けたのが先にも触れたバレットだ。2016年、17年と連続で世界最優秀選手に選ばれた時のポジション(SO/スタンドオフ)は、この試合も先発したリッチー・モウンガに譲る試合が多くなっているが、FBからのライン参加、状況に応じて司令塔の位置に立ち、パス、ラン、キックの引き出しを使い分け、ファーストトライをお膳立てしたキックのようにフランスの防御を翻弄した。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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