16年経っても「なぜ捕れなかったか分からない」 五輪で犯した世紀の落球、会議室の天井に透けた北京の空――野球・G.G.佐藤
歯車が狂った1つ目のエラー「マジで飛んでくんな」「捕れるわけねえ」
予選リーグは4勝3敗の4位。首位突破の韓国と決勝進出を懸けて激突した。「7番・左翼」で先発。負けられない日韓戦に、高揚感と不安が入り混じる。「決闘する感じでしたね」。普通の精神状態ではなかった。
歯車が狂ったのは4回の守備。左バッターが放った左翼線の打球の処理に向かったが、まさかのトンネル。切れていくボールに対処できなかった。「こんな簡単なボールが捕れないのに、難しいフライが捕れるわけねえじゃん」「マジで飛んでくんな」。動揺は大きかった。
マイナス思考に陥っていた8回の守備、更なる悲劇が襲った。2-4とリードを許し、これ以上の失点は避けたい展開。2死一塁から、左中間へ大飛球が飛んだ。
「俺か?」。中堅手の青木宣親が捕球することを願った。でも、フェンス際で追いついたのは自分。普段なら捕れたボールは、グラブからこぼれ落ちた。
「もう帰れないですよ、ベンチに。申し訳なさ過ぎて。星野さんをチラッと見たら、まさにデビルでした」
手痛い追加点を許した日本は2-6で敗戦。金メダルは夢と散った。
これだけミスをした自分が、3位決定戦で使われるはずがない。周囲の温かい声も、耳に入ってこなかった。「明日はゆっくり応援しよう」。眠れない夜を過ごした。
一夜明けの朝食会場。貼り出された米国戦のオーダーに、目を疑った。「9番・左翼」で名前が書かれていたからだ。
「血の気が引きましたね。やべえ、今日行くんだ俺って」
昨日の弱気な自分は嫌だ――。スイッチを入れた。「今日は何が何でも行くぞ!」。迎えた米国戦は、この気合が空回りしてしまう。