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涙と笑顔 阿部兄妹、五輪ロードに分かれた明暗 呆然の一二三「兄として情けない」

妹・詩は兄の奮起に期待「もう一回私を引っ張る存在になって」

 失意の3位決定戦。延長で強引に投げて銅メダルを奪い取った。すでに連覇を決めた妹が会場内のモニターを食い入るように見つめる。兄がメダルを死守した瞬間、手を叩いて喜んでいた。

 前回大会と昨年11月のグランドスラム(GS)大阪大会を制し、早々に今大会の代表に内定。悔しさにまみれた兄とは対照的に、詩は最高の結果を残した。準決勝は2016年リオ五輪金メダルのケルメンディ(コソボ)と初対戦。独特な組み方をする五輪女王に果敢に挑むと、消極的な姿勢の相手は先に指導を2つ受けた。詩が技を打ち続けると、スタンドの少女から「詩ちゃん、ファイトー!」の声援が飛ぶ。決着がつかないまま4分が過ぎ、ゴールデンスコア方式の延長戦に突入した。

 2つ目の指導を取られ、納得のいかないファンからブーイングが響いたが、最後は横四方固めを決めて一本。苦手の寝技で7分15秒の激闘を勝ち切り確かな成長を示した。兄が準決勝で敗れた直後の決勝は、クジュティナ(ロシア)に開始30秒で袖釣込腰による圧巻の一本勝ち。決めた瞬間、審判を見ながら「しゃー!!」と声を上げ、笑顔で畳を降りた。

 見ている5293人の観衆もスカッとするような綺麗な投げだった。これで対外国人は45連勝。終わってみれば、準々決勝以外の4試合は一本勝ちだ。

「ここ1か月は試合のことを考えながら不安とプレッシャーとで自分との闘いだった。やり切ったと思う。きつかったけど、最後に諦めて攻め抜いた。体力もあまりなかったので、袖釣りで決めようと心に決めていた。

 本当に凄い大声援で予想以上の声が聞こえた。最後、決勝で勝った後の拍手は鳥肌が立った。一生忘れない凄い拍手と声援。来年の五輪でまた同じように凄い声援を浴びて、私が一番になりたい」

 男女7階級の柔道で東京五輪に出られるのは1人ずつ。今大会優勝者が11月のGS大阪を制し、強化委員会出席者の3分の2以上の賛成を集めれば東京五輪代表となる。代表が決まらなかった階級は、来年2月までの主要国際大会終了時点の実績で判断され、最終選考会は4月の全日本選抜体重別選手権となる。

 詩はGS大阪で勝てば、東京五輪の当確ランプが灯る優位な状況にいる。裏を返せば今大会金メダルの丸山も同じ。一二三は26歳のライバルを絶対に止めなければならない。若くして世界選手権を連覇し、“東京五輪金メダルに一番近い”と期待された兄が窮地に立たされている。

「お兄ちゃんと優勝できるのが最高の形だった。負けてしまったけど、まだまだ意地があると思う。諦めずもっともっと強くなって、もう一回私を引っ張る存在になってほしい」

 幼い頃から兄妹一緒に目指した五輪の畳。妹は強い兄を追いかけてここまできた。2人で輝くためには、汗を流すしかない。

(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)


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