涙と笑顔 阿部兄妹、五輪ロードに分かれた明暗 呆然の一二三「兄として情けない」
柔道世界選手権の2日目が26日、東京・日本武道館で行われ、男子66キロ級で3連覇を狙った阿部一二三(日体大)は銅メダルに終わった。準決勝で丸山城志郎(ミキハウス)にゴールデンスコア方式の延長3分46秒で技あり(隅返し)を奪われたが、3位決定戦はイタリア選手に一本勝ち(釣腰) した。女子52キロ級では、妹・詩(日体大)が2連覇。昨年大会日本勢史上初の兄妹優勝を成し遂げたが、兄妹V2はならず明暗が分かれた。
一二三は腫れた右目に涙、妹が追いかけた強い兄の「意地」を見せられるか
柔道世界選手権の2日目が26日、東京・日本武道館で行われ、男子66キロ級で3連覇を狙った阿部一二三(日体大)は銅メダルに終わった。準決勝で丸山城志郎(ミキハウス)にゴールデンスコア方式の延長3分46秒で技あり(隅返し)を奪われたが、3位決定戦はイタリア選手に一本勝ち(釣腰)した。女子52キロ級では、妹・詩(日体大)が2連覇。日本勢史上初の兄妹優勝を成し遂げた昨年大会に続く兄妹V2はならず、明暗が分かれた。
紫色に腫れ上がった目から涙がこぼれ落ちた。東京五輪の前に迎えた世界3連覇への挑戦。一二三は最大のライバル・丸山に3連敗を喫し、無念の3位決定戦に回った。最後は豪快な一本で意地を見せた。それでも胸にある思いは一つだけ。「悔しい。その一言です」。畳を降りて励ましの声援を耳にすると、こらえきれない。インタビューを受ける頃、右目の視界はほとんどなかった。胸中を問われ「自分自身……」と言った後に声を詰まらせた。
「優勝できなかった悔しさ、情けなさがある。今まで本当に3連覇するつもりでやってきたので。もっとしっかり自分らしい前に出る柔道を……ちょっと技を受けてしまった部分もあった。妹が優勝して3位。兄として残念だったな、情けないなという感じです」
準決勝の丸山戦。負傷した右目を痛々しく腫らしながら入場した。開始18秒で組み合った際に相手が左手を負傷。自分が打った投げ技に丸山の体が浮くと、場内は歓声と悲鳴が交差した。開始1分30秒過ぎには丸山が右膝を負傷。それでも果敢に戦い続ける両者に拍手が降り注ぎ、ゴールデンスコア方式の延長に突入した。
得意の巴投げを試みる丸山に対し、一二三も満身創痍のライバルを攻めたが、徐々に積極的な姿勢を失う。2つ目の指導を取られた。最後は隅返しによる技ありで敗北。7分36秒の激闘を終え、畳に背中をつけたまま茫然と天井を見つめた。
「最初、がんがん攻めていいペースだったけど、ちょっと受けてしまった部分がある。指導をもらってちょっと様子を見てしまった。そこがダメだったところ。巴は自分が前に出た時に引き込まれた。タイミングが合ってしまった。丸山選手が序盤でケガしたのはあまり動揺もなく、自分自身の柔道を出すだけだった」
昨年大会を制して以降は優勝から遠ざかり、同11月のグランドスラム(GS)大阪大会と今年4月の全日本選抜体重別選手権で丸山に連敗。GSでは完璧に巴投げをくらい、最大の警戒心を持って臨んだはずだった。「いつも引き込まれるパターンで投げられていた。そういう部分もわかっていたけど、ついて行ってしまった。う~ん、どうしてだろうって」。今大会は代表2枠目に滑り込んだが、6月の代表合宿で左足首を負傷して7月中旬まで練習できず。東京五輪出場の最大の壁となる“天敵”丸山にまたも敗れる結果となった。
右目へのアクシデントは中国選手との3回戦だった。「頭突きをくらった。そこから何回もぶつかっていたら、こんな風になった」。視界がふさがった。距離感もつかみづらいはず。だが、柔道家としての精神だけは折れない。「準決勝も何回かバーンってぶつかったりしていて、少しぼやけるのはあったけど、これが原因で負けたとかはない。自分の力の無さ、最後まで決め切るところで決め切れなかった弱さだと思う。支障はない」と潔く話した。