「アホか!」とぼろくそに怒られた 平尾誠二の「熱くて、泥臭い」華麗じゃない素顔
元木氏が知る“本当の平尾誠二”とは?
19歳の元木少年は、その華麗なステップ、柔軟かつ鋭い判断力を盗もうと平尾氏のプレーを食い入るように見続けた。「上手いなという印象でした。戦略家で、ゲームを作る能力が高かった。それにリーダーシップがありました」。その印象は、敵味方に分かれて3度戦った日本選手権でも再認識させられた。
「相手の嫌がることを徹底してやってきた。それに、すごかったのはゲームの組み立てですね。どこでボールをまわすのか、キックなのか。そういう判断では、ミスはほとんどなかった」。いまならAI仕込みのラグビー・サイボーグとでもいうべきだろうか。正確で計算し尽くされたプレーを、嫌というほど見せつけられた。
しかし、平尾誠二の本当の姿を知ったのは、元木氏が神戸製鋼入りした後のことだった。誰もがイメージする華やかで計算されたプレーは、平尾氏の表側にあらわれた50%に過ぎなかったというのだ。
「平尾さんて華麗だとか上手いとか、そういう部分が非常に表に出ていましたけど、実はむちゃくちゃ熱い人で、すごく泥臭かった。神戸製鋼の練習でも、いろんなことにチャレンジしてのミスはいいんですけど、何も考えてないプレーはすごく怒られた。『あほか!』と、もうボロカスに言われましたね。あの怒り方は半端じゃなかった。スマートさと熱さの両方を持っていたんですけど、表に出るのは9対1か8対2くらいでスマートさだった。でも本当の平尾さんは、それが五分五分だった」
精緻な思考と冷静な判断力、そして世界レベルの高いスキル。それに加えて、滾る(たぎる)ような熱い情熱を持ち合わせていたからこそ、神戸製鋼に集まった日本トップクラスの個性的な猛者たちも、誰もが絶対的なリーダーと認めていたのだ。
そんな“熱と知”を感じ取った上で、元木氏は選手としての平尾誠二をこう語った。
「相手を突破するような能力なら、他にも優れた選手がいた。でも、さまざまなことを考えてプレーする選手としては、やはり天才だったと思います。いいプレーヤーというのは2つ3つ先を読んでいるけれど、平尾さんはもっと先を読んでいた。判断をするスピードは、人よりものすごく早い。でも、ボール持ったときに自分の判断を人よりも断然長く遅らせられる。つまり、ぎりぎりまで判断を待てるプレーヤーでした。これができる選手は多くはない。そういう意味では、この人とやってたら大丈夫や、負けないなという安心感がありましたね」