ラグビー界に告ぐ、五郎丸歩のメッセージ W杯の“その先”に未来を描いているか
「一度、観に来てもらえれば…」で競技は発展しない、五郎丸のアイデアは?
五郎丸自身、ラグビーの根源的な魅力に虜になった1人だ。福岡で生まれた歩少年が初めて楕円球を蹴ったのは、3歳の時。当時はグラウンドに行っても、ラグビーのユニホームを着て、ボールよりバッタを追うことが楽しみな子どもだった。「そんなヤツに強制をさせることなく、優しく見守ってくれた大人には感謝している」と笑う。
ただ、「ずっと背中を追ってきた」という1歳上でラグビーをやっていた兄・亮さん(元コカ・コーラ)の存在が大きかった。「いつか倒したいという思いは男としてある。それがケンカではなく、ルール上でやりあえるのは幼心に楽しかった」。男同士の力比べ、ぶつかり合い。そんなものがスポーツとして味わえることが面白かった。
以来、花園に3年連続出場した佐賀工、大学日本一とともに代表デビューを経験した早大、そして社会人のヤマハ発動機と進み、順調にキャリアを積んだ。その中で感じたラグビーの魅力は醸成されていった。
「世の中にはいろんなスポーツがあり、ぶつかり合いをする競技も多くあるけど、80分間、なおかつ球技で最もピッチに立つ人数の多い15人が、チームのために体を張って頑張っている。15人が一つになって、トライを奪おうとする姿には“激しさ”という一般的なイメージとは真逆の“美しさ”がそこにあると思う」
少しいじわるな問いもぶつけた。もっとファンを呼びたいという競技の関係者がよく口にする言葉が「一度、観に来てもらえれば、面白さをわかってもらえる」だ。ラグビー関係者から聞くこともある。しかし、本当に一度、観に来るだけで競技の魅力が伝わり、ファンになってもらえるなら、もっと早くラグビーは日本に根付いているはずだ。
どうすれば「一度」が二度、三度につながり、真のファンは増えていくのか。そんな話をすると、五郎丸は深く頷き、現実を受け止めながら「今のラグビーでいえば、試合前後の環境にあると思う」と持論を語った。
「例えば、海外は試合前にファン同士がお酒を酌み交わして、試合に臨む。試合後もお酒はもちろん、いろんな形でコミュニケーションを取る。日曜に試合があれば、1日を試合中心としていろんなイベント、オプションがある。試合を観に行くだけでなく、そこに付加価値がいっぱいある。そういうことに関しては日本は遅れている。試合自体をいいものにしようと環境を整えるけど、そうじゃなく、1日という長いスパンで見た時にもっといいものを提供できるし、満足させられるものはある」
例として、自身がプレーしたフランスのクラブ、トゥーロンを挙げた。
「ファンとの距離は非常に近い。サッカーも野球もそうだけど、基本はスタジアムに着けば、裏通路からファンと会わずにロッカーに行く。セキュリティー上は非常に大事なこと。ただ、当時は敢えてスタジアムの前で降ろされた。ファンが両サイドで見守り、その間を選手が通っていく。仕切りもなければ、警備員もいない。でも、試合前だから写真を撮ったり、体を触ったりもしない。ルールで決まっているわけではなく、モラルとして。スポーツ文化が非常に進んでいる、一つの象徴に感じた」