日本が揺れた朝「3日くらい寝ずに仕事できるわ」 ガラケーの電話口で久保竜彦は高揚した
「元気もらったよ。寝ずに3日間くらい仕事できるわ」
午前3時40分起床。観戦したのは、近所の「おっさん」が営む食堂だった。
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「おっさんが起こしてくれて。(観戦の準備も)全部、やってくれたけえ。そのおかげで、最高の状態で見れたんよ。おっさんのおかげよな」
4時、試合開始。おっさんへの感謝を胸に、ホイッスルを聞く。
「今日は、なんも飲まんかったで」。趣味は酒と釣り。普段は「試合を観ながら飲んだら、90分で(頭をふらふらさせながら)こうなっとるけんね」という男である。運命を分ける森保ジャパンの戦いへ、誠意と敬意が垣間見えた。
前半11分。あっさり先制点を献上。「何点取られるんやろって思ったわ」
駅にいるのか。時折、騒がしい列車の通過音が、久保の声の邪魔をする。
「スペイン、すっげえ上手い。強いし。当たりに行ってるのに弾き飛ばされとるもん」
しかし、久保の不安は日本がかき消した。
後半3分に堂安が同点弾。駅のアナウンス音に負けず、声のトーンが上がった。
「そりゃ、声出たよ。堂安やし。凄かったわ」。日本代表をほぼ見ない久保の唯一のお気に入りが堂安である。
直後、6分に田中が逆転弾。以降は防戦一方になりながら、1点を守り切る。
試合終了。画面には、目をバキバキにして喜びを語る森保監督の姿。
広島ルーキー時代。「寮のメシがまずい」と生意気を言うと、家でメシを食わせてくれた頭の上がらぬ恩人である。
「そりゃあ、もうおっさんと2人で喜んだよ」
ひと通り観戦の様子と感想を聞くと、インタビュー開始。堂安のゴールの凄さから、スペイン撃破の要因、森保采配に感じた執念まで饒舌に語った。
今大会、これまでの久保の観戦レポート、解説は好評をもらっている。
「なんや、お前が書くのが上手いんか。まあ、俺は読んどらんけどな」。この男は、ことごとく嘘をつかない。
しかし、嘘をつかないから「日本サッカー史上最高の試合やろ」の言葉に、真実味が浮かぶ。
次はクロアチア戦。
「今から仕事、行きよるんよ。元気もらったよ。寝ずに3日間くらい仕事できるわ。月曜、楽しみやね」
午前8時30分。電話を切る。「あぁーい、ありがとう」。最後もまた、おだやかな声だった。
なお、インタビューは近く配信する。
(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)