50キロ競歩の荒井、銅メダルまでのドラマ その裏にあったカナダ選手の思い
荒井とダンフィーの高潔なスポーツマンシップ、「僕らは同じ苦しみの世界にいた」
灼熱の死闘を戦い抜いた荒井への敬意がそこにあったようだ。
「彼は僕と同じ苦しみの世界にいた。彼は僕の肩に軽く触れた。僕はアグレッシブな競歩選手だから、彼にもたれかかるようなこともあったかもしれない。自分が最後にビデオを見た時に、自分自身にそう(故意の接触だったとは)言えなかった。自問自答せざるをえなかった。もしも、自分がこのメダルを手にしたとしても、誇りに思えるのだろうか、悩まずに眠りにつくことができるのだろうかと。正直、彼の達成したことも奪うことはできない。そう決断したんだ」
記事によると、ダンフィーは論争を呼んだ接触シーンで荒井の失格を主張する気持ちには到底なれなかったと胸中を吐露したという。
「こんな過酷なレースで3時間半の間、アスリートがどんな苦痛を感じるのか理解できる人は少ないと思う。僕たちのスポーツでは接触は当たり前のこと。ルールに明文化されているか、いないかはともなく、それが完全な常識なんだ。だから、あれが悪意のあるものとか、故意でやったものとは信じられないんだ。もしも、CASに上告してそれが成功したとしても、すっきりとメダルを受け取ることはできないだろう。それは自分自身、誇りに思えないんだ」
激闘を戦い抜いたライバル同士、心の底で通じ合う高潔なスポーツマンシップが存在するようだ。
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ジ・アンサー編集部●文 text by The Answer
ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images