激化する米国の勝利至上主義 スポーツ栄養の知識を発信する、ある団体の働き
Jリーグやラグビートップリーグをみてきた公認スポーツ栄養士・橋本玲子氏が「THE ANSWER」でお届けする連載。通常は食や栄養に対して敏感な読者向けに、世界のスポーツ界の食や栄養のトレンドなど、第一線で活躍する橋本氏ならではの情報を発信する。今回は「勝利至上主義が激化する米国で運営される団体『True Sport』の働き」について。
公認スポーツ栄養士・橋本玲子氏の連載、今回は「『True Sport』の働き」について
Jリーグやラグビートップリーグをみてきた公認スポーツ栄養士・橋本玲子氏が「THE ANSWER」でお届けする連載。通常は食や栄養に対して敏感な読者向けに、世界のスポーツ界の食や栄養のトレンドなど、第一線で活躍する橋本氏ならではの情報を発信する。今回は「勝利至上主義が激化する米国で運営される団体『True Sport』の働き」について。
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アメリカに、育成年代の子供たちと保護者、そしてコーチを対象に、スポーツの価値をベースとした教育プログラムの開発と普及に努める「True Sport」という団体があります。この団体が提供する「True Sport Program」では、スポーツの体験を通じて、「スポーツマンシップ」「キャラクタービルディング(人間性の構築)とライフスキル」「クリーンでヘルシーなパフォーマンス」を育むというビジョンを掲げて活動。様々な競技種目の代表団体や現役アスリートとコラボレーションをしながら、全米各地のローカルチームに対し、スポーツによる健全な育成につながる草の根活動を行っています。
実は「True Sport」を運営するのは、アメリカのアンチドーピング機構(USADA)です。
アメリカスポーツ界のドーピング問題の根本には、勝利至上主義の激化があります。常に結果を求められるトップアスリートの摂食障害や燃え尽き症候群が問題視されていますが、厳しい練習を乗り越え、猛烈なプレッシャーにさらされるなか、勝つために薬物に依存する選手も絶えません。さらに結果主義は、育成年代の指導者や親にも強い影響を与え、結果、学生アスリートやスポーツをする子どもたちまで、猛烈なプレッシャーを与えることになり、これが問題視されています。
1975年以降、毎年、米国国立薬物乱用研究所が、全米の中学・高校生を対象に薬物使用と意識に関する調査を行っていますが、2019年の結果によると、ステロイドに関しては、中学2年生、高校1年生で0.8%、高校3年生では1%が使用。また、薬物使用の目的に「パフォーマンスの向上」という理由も挙がってきているようです。
本来、子どもたちにとってのスポーツは楽しみの一つです。また、子どもはスポーツを通じて、勇気や考える力、忍耐力、誠実さやチームワーク、マナーなど学び、人生を送る上での大切なスキルを身に付けていきます。ところが、行き過ぎた勝利至上主義により、スポーツ本来のよさが消失している。そのような現状を憂慮したアンチドーピング機構が原点に立ち返り、子どもたちの心身の発達に好ましい影響を与える、本来のスポーツのよさを啓蒙しようと、「True Sport」がスタートしたようです。
「True Sport」では、スポーツ栄養の基礎知識も発信。HPにはスポーツ栄養の基本ガイドから、水分補給の仕方、練習前後の補食の取り方、ケガをした時の食事と栄養、子どもの偏食について、子どもと炭酸水について、サプリメントについての考え方など、スポーツをする子どもに焦点を当てたホットなトピックスが掲載されています。