アテネ五輪代表・伊藤友広さんが「東北『夢』応援プログラム」に登場
所々に桜が咲き残る岩手県宮古市。2004年アテネ五輪陸上1600メートルリレー4位の伊藤友広さんが4月29日、宮古運動公園陸上競技場で行われた「東北『夢』応援プログラム」の成果発表イベントに参加し、半年にわたり指導してきた子供たちの成長を見届けた。
所々に桜が咲き残る岩手県宮古市。2004年アテネ五輪陸上1600メートルリレー4位の伊藤友広さんが4月29日、宮古運動公園陸上競技場で行われた「東北『夢』応援プログラム」の成果発表イベントに参加し、半年にわたり指導してきた子供たちの成長を見届けた。
「東北『夢』応援プログラム」は、公益財団法人東日本大震災復興支援財団が立ち上げ、年間を通して子供たちの夢や目標を応援するプログラムだ。指導役の「夢応援マイスター」を務めるアスリートや元アスリートが、参加する子供たちがそれぞれに掲げる半年後、あるいは1年後の目標に向かって、遠隔指導ツールでサポート。1日限りのイベントで交流を終えるのではなく、離れた場所でも動画やSNSを通じて継続したプライベートレッスンが受けられるという画期的な試みだ。
昨年11月に始まった今回のプログラム。1月の中間発表はオンライン開催だったため、当時以来の再会を果たした伊藤さんと子供たち。「今日は参加者2人ということで少し寂しいですけど、その分2人を多く見て、いろいろなアドバイスができると思います。これをチャンスだと思って、一生懸命取り組んでいきましょう」という伊藤さんの挨拶で、まずはクリニックがスタートした。
春を迎え、暖かくなっていた宮古市だが、この日は海風が強く気温11度と冬を思わせる肌寒さだった。成果発表の課題であるタイム測定の前に数種類のスキップやダッシュでウォーミングアップ。子供たちは両腕を左右で逆に回しながらスキップをするなど、慣れない動きに苦戦しながらも、伊藤さんの「肩甲骨から回すことを意識してみましょう」というアドバイスを受けると、すぐ上達してみせた。
「速く、大きく動く」ための身体の使い方を学ぶメニューを実施
今回の成果発表で、タイムを伸ばすために伊藤さんが設けたテーマは「速く、大きく動く」だ。
まず「速く」動くトレーニングとして行ったのは、両脚を揃えた状態で、10秒間でマーカー上を前後左右に何回跳べるかというもの。目標は1回でも多く跳ぶことと。膝を少し曲げ、上体をマーカー上に残したまま、脚のみを前後左右に動かすことがポイントだという。また、長座の状態で、それぞれ指示された身体の部位を触ったまま、合図と同時に2人の間に置かれたマーカーを早く取るミニゲームも実施。頭も使った練習は盛り上がり、子供たちの楽しそうな笑い声が響いた。
ケンケンやスキップの動きを利用して、走りの基礎についても指導。脚に力を入れるタイミングや、重心を乗せる場所などをレクチャーした。アドバイスをもらった子供たちはグンとスピードを上げ、手応えを掴んだ様子。「2人とも良くなったね」と伊藤さんに声をかけられると、充実の表情を見せた。
次は「大きく」走るためのメニューだ。伊藤さんが叩く手のリズムに合わせ、約30センチで等間隔に置かれたマーカーの間に足をつきながら駆け抜けるというトレーニング。手拍子に合わせて走るには、ストライドを大きく開き、最初の2、3歩でスピードに乗る必要がある。手拍子の速度が増すにつれ、マーカーの間隔を徐々に広げ、最終的に約90センチにまでなった。
1時間半のクリニックの締めくくりとして、10メートルのケンケン、20メートルのスキップ、50メートル走のタイムを測定。トラックを何度も駆け抜けた子供たちは、最後の測定が終わった瞬間、芝生に倒れ込んだほど、全力を出し切った。そんな様子を、伊藤さんは温かい表情で見守った。
伊藤さんが子供たちに説いた「継続する」重要性
いよいよ成果発表の時間が来た。子供たちは一人ずつ「半年前に宣言した約束」と「成長したこと」「今後の課題」「感想」「自己評価点数」を発表。半年前に「コンバインドBで走り幅跳びの記録を伸ばしたい」と宣言していた小学6年生のベイカー慈韻(じん)君は、「走り幅跳びの記録を伸ばし、ジャベリック(やり投げ)を投げるフォームを改善することにも役立てることができた。オリンピック選手のフォームを見て真似していきたい」と振り返った。
テニスにも励んでいる小学5年生の船越奏介君は「腕を速く振ることができるようになった。大きく速く動くことはテニスにも活かせると思った。目標を持って陸上に毎週通うことができた」と明かし、取り組む姿勢にも変化があった様子。普段、トラック競技以外にも挑戦している2人は、今回のプログラムを通じて教わったスキルを他競技にも応用しながら、自身の成長を実感しているようだった。
伊藤さんは最後に、指導した子供たちに向けて、こんなメッセージを送った。
「半年間という短い期間ではありましたが、段々と力が伸びてきていると感じました。これは、良い走り方、良い動き方ができているから改善されていると思います。練習の意味や、身体の部位を意識して、自分なりに動きを考えながらトレーニングに取り組むと、より効果が高まると思います。
今日の成果発表は、良い結果だったか、そうではなかったか、それぞれあるとは思います。ですが、今後トレーニングを継続していくことで、1年後、2年後、必ず変わってくるので、今回のプログラムを活かして頑張っていってほしいと思います」
半年という短い期間ではあったが、陸上の元オリンピアンから走りについて直接学び、取り組んだ経験は、子供たちにとってかけがえのない時間になったことだろう。そして、伊藤さんから受け取った「継続することは重要」というメッセージ。手渡された修了証に書かれた助言を心に刻み、宮古の未来あるスプリンターたちはこれからも成長を続ける。
(THE ANSWER編集部・中戸川 知世 / Chise Nakatogawa)