「東北『夢』応援プログラム」、元日本代表主将の菊谷崇氏が石巻工業ラグビー部を指導
「今年で6年目になりますが、こんなにいい試合を見たのは初めてです」 そう声を掛けられ、誇らしげな表情を浮かべたのは宮城・石巻工業高校ラグビー部の面々だ。
交流開始から6年目、石巻工業ラグビー部の善戦に「こんなにいい試合を…」
「今年で6年目になりますが、こんなにいい試合を見たのは初めてです」
そう声を掛けられ、誇らしげな表情を浮かべたのは宮城・石巻工業高校ラグビー部の面々だ。
10月9日にセイホクパーク石巻で行われた仙台高専との練習試合。終始ゲームの主導権を握った石巻工業は、バックスにパスを展開したり、モールでインゴールまで押し込んだり、豊富なバリエーションのトライを決め、40-5の圧勝を飾った。
夏合宿では一方的に攻め込まれた相手に、焦らず落ち着いたプレーで借りを返した。そんな選手たちに冒頭の言葉を送り、成長ぶりに目を細めたのが、ラグビー元日本代表主将の菊谷崇氏だ。
菊谷氏はこの日、公益財団法人東日本大震災復興支援財団が立ち上げた「東北『夢』応援プログラム」の第6期スタートにあたり、夢応援マイスターを務める菊谷氏が石巻を訪問。残念ながら現地に足を運べなかった、同じく夢応援マイスターでリーグワン・横浜キヤノンイーグルスで活躍する天野寿紀の想いも石巻まで届けた。
現役だった2016年、菊谷氏はキヤノンイーグルスの代表として「東北『夢』応援プログラム」に賛同したことをきっかけに、石巻工業ラグビー部と出会った。以来、6年の長きにわたって続く同校との交流。定期的に現地へ足を運んで選手たちの成長をサポートしたり、現地を訪問できない時は遠隔指導ツールを積極的に活用し、交流を続けてきた。
現在、チームは花園予選の真っ只中。3回戦で仙台第三高に勝利し、21日に行われる準決勝に向けて調整を進めている。対戦するのは因縁の佐沼高だ。昨年も花園予選準決勝で対戦したが14-14の同点となり、抽選の結果、涙を呑んだ。その悔しさを2度と味わわないために、布施雅博監督の指導の下、念願の花園出場を目標に掲げて練習に邁進している。
パスを繋ぐために大切な「声掛け」 選手を導きながら課題解決
そんな石巻工業にとって、菊谷氏の訪問は最高のプレゼントとなった。コロナ禍の影響もあり、直接対面するのは1年ぶりのこと。再会を楽しみにしていた選手たちは前日から待ちきれなかった様子で、グラウンドに菊谷氏の姿を見つけると、満面の笑みを浮かべて元気な挨拶をした。
これまでは菊谷氏と天野が考えたメニューに沿って練習し、選手たちとディスカッションを重ねながら、考えてプレーする大切さを伝えてきた。だが、この日は練習試合前ということもあり、ウォーミングアップを兼ねたタッチフットを実施。走らずに早歩きする、2回タッチされたら攻撃権が相手に移る、など独自のルールを設定し、ゲームを行った。
この時、菊谷氏が伝えたかったのは「声を掛ける大切さ」だ。ボールを後ろにパスしながら前方のゴールラインを目指すラグビーでは、スムーズにパスを繋ぐために後方からの声掛けが肝となる。菊谷氏は「ボールを出す人に明確な選択肢を与えるための声を掛けよう」とアドバイス。「ディフェンスラインがばらばらだったので、直線に揃って上がるべきだった」という選手から出た反省に注目すると、どんな対応策があるのか、選手たちが自ら答えを導き出すサポートに努めた。
また、ラグビーの基礎とも言えるタックルの技術指導では「テコの原理」を上手く活用するようにアドバイス。自分の肩より低い位置にある相手の膝裏やふくらはぎを手でバインドすれば、大きな力を使わなくても相手のバランスを崩せる。わずかな意識の違いが、無駄なく効率いいプレーに繋がり、勝利への近道ともなるのだ。
大一番に向けてエール「今のチームに自信を持って」
練習試合の様子をサイドラインから、時にはインゴール奥から真剣な眼差しで見つめた菊谷氏。快勝後の円陣では「いい試合でした。チームワークが素晴らしかった。仙台第三高戦で課題だったブレイクダウンやエリアマネジメントも、しっかり反省が生かされていたと思います。みんなで作り上げた今のチームに自信を持って準決勝に臨んで下さい。今日は頭の中を整理して、いいリカバリーに務めましょう」と賛辞を送った。
この日、選手たちに手渡された「夢達成ノート」には、自分の目標を書き込み、継続的に達成度や経過を書き込む欄がある。真新しい夢達成ノートを開き、眺める姿に、菊谷氏はこう呼びかけた。
「このノートは目標を達成するために大切な『PDCA』が書き込めるようになっています。PはPlan(計画)、DはDo(実行)、CはCheck(確認・評価)、AはAction(改善)。夢を達成するには、まずプランを立てること。しっかりノートを活用して、夢に向かって進んでください」
憧れのラグビー界が誇るレジェンドの言葉に耳を傾ける37人の選手とマネージャー。21日の準決勝で雪辱を果たし、今年こそ花園出場の目標を達成したい。
(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)