「東北『夢』応援プログラム」、伊藤華英さんがオンライン指導で小学生と交流
競泳で北京、ロンドンと五輪に2大会連続出場した伊藤華英さんが28日、公益財団法人東日本大震災復興支援財団が立ち上げた「東北『夢』応援プログラム」のオンラインイベントに登場した。各競技のトップランナーが遠隔指導ツールを駆使し、動画を通じて被災地の子供たちを指導するプログラム。今回は昨年10月から半年間、岩手・大船渡の小学生10人を対象にした指導の集大成となる成果発表イベントが行われた。
震災から10年目の春 大船渡の子供へ、伊藤華英が半年間をかけて伝えたこと
競泳で北京、ロンドンと五輪に2大会連続出場した伊藤華英さんが28日、公益財団法人東日本大震災復興支援財団が立ち上げた「東北『夢』応援プログラム」のオンラインイベントに登場した。各競技のトップランナーが遠隔指導ツールを駆使し、動画を通じて被災地の子供たちを指導するプログラム。今回は昨年10月から半年間、岩手・大船渡の小学生10人を対象にした指導の集大成となる成果発表イベントが行われた。
このプログラムは遠隔指導ツール「スマートコーチ」を利用し、子供たちから練習動画が送られ、それに対し、コーチ役の「夢応援マイスター」伊藤さんがアドバイスを添えて返信。月1回のやりとりを繰り返し、水泳の技術向上を目指すというもの。プログラムに参加して5年目になる伊藤さんは、昨年10月に指導のスタートとなる「夢宣言イベント」以来、東京から子供たちの成長を見守ってきた。
この日は本来、大船渡に行き、対面で指導するはずだったが、新型コロナウイルス感染拡大により、オンライン方式に変更。それでも、都内から参加した伊藤さんが「皆さん、久しぶりです。元気ですか~?」と呼びかけると、この日参加した小学生5人のうれしそうな顔が画面に並んだ。「大船渡に行きたい気持ちはありますが、こうやってオンラインで会える。毎月、皆さんの動画を見るのを楽しみにしていました」と伊藤さんは挨拶した。
イベントはまず屋内でできるトレーニングの指導からスタート。「泳ぐために一番柔らかいと良い場所」という肩甲骨周りの柔軟性を伸ばすストレッチを紹介した。けのびの姿勢から胸を張って両腕を落とす動きなど、オンライン画面で確認しながら挑戦。「こういう動きを泳ぐ前に取り入れると、ストリームラインが取りやすくなるよ」。伊藤さんのアドバイスを聞き、子供たちも真剣な表情で取り組んだ。
続いて行われたのが、半年間の成果発表。用意された「夢達成ノート」に半年間の振り返りとして「成長できたこと、上手くできるようになったこと」「今後の課題」「半年間の感想」を子供たちが記入し、それぞれが発表した。「クロールで腕を大きく回せるようになった」「苦手なことをいっぱい直せた「息継ぎがまだうまくできないので、上手にできるようになりたい」など、これまでとこれからの歩みに視線を向けた。
泳ぎを動画でチェックしてきた伊藤さんは個別に技術的なアドバイスを送ったが、それ以上に知ってほしかったのが、この経験が様々な場面で生かせるということ。「うまく行かないこともあったかもしれない。でも、結果が悪くてもチャレンジすることが大事ということを忘れないで」「泳ぎが上達しすることで自分に自信を持てたと思う。学校とか、ほかの場所でも“やればできる”という気持ちを持ってほしい」と説いた。
子どもたちに贈った言葉「大切なことは昨日より今日の自分」
成果発表の後はトークコーナーを実施し、伊藤さんの現役時代のエピソードが披露された。参加者と同じ小学生時代、どのくらい練習していたかとの質問には「1年生の時に選手コースに入って週2回くらいの練習。2、3年生になると毎日練習していました」と話すと、小学生たちは驚きの表情を浮かべた。さらに2度出場した五輪の思い出を問われると、こんなことを語った。
「五輪は特別な場所。なかなか普段は感じられないけど、海外に行くと自分は日本人なんだ、日本や自分たちの街は素晴らしい場所なんだということも確認できます。また、一生懸命やっていれば、一生懸命やっている仲間と出会います。五輪はいろんな国の選手がみんな頑張っている場所だったので、もっともっと私も頑張ろうという謙虚な気持ちになれました」
水泳を続けてきて良かったことの質問については「一生懸命、努力することが大切と学びました」と伊藤さん。「一緒に頑張るライバル、仲間がいて、1番になる人も2、3番になる人も生まれる。みんながいることで、それぞれの価値が高まる」「結果は神様しか知らない。だから、自分にできるのはベストを尽くすことだけ。それは人生も同じことだと思いました」と答え、水泳で得た気づきを伝えた。
オリンピック選手と小学生が交流を図る貴重な1時間半は、あっという間に過ぎた。最後に伊藤さんは子供たちに心を込めた言葉を贈った。
「大船渡や東北になかなか行けずに寂しい思いをしていますが、みんなと月に1回、動画を通じて会うのは意義があること。(コロナ禍の)去年から今年、特に感じました。一人一人成長することがスマートコーチのシステムならできます。人と比べて自信を失うこともあるかもしれないけど、大切なことは昨日より今日の自分。その成長を感じることが水泳はできるし、一生懸命やって身につけた自信を水泳以外にも生かしてほしいと思います」
2011年の東日本大震災から、ちょうど10年目の春。オンラインを通して深まった絆は、距離を越え、これからもつながっていく。
(THE ANSWER編集部)