菊谷崇氏と天野寿紀が石巻工業を訪問、ブレイクダウンのポイントを徹底指導
ラグビー元日本代表主将・菊谷崇氏と、トップリーグのキヤノンイーグルスでプレーする天野寿紀が、現役の高校生たちを実際に指導する。夢のような時間は公益財団法人東日本大震災復興支援財団が立ち上げた「東北『夢』応援プログラム」によってもたらされた。菊谷氏がキヤノンイーグルスの代表として賛同を表明したのがきっかけで、以来、天野とともに、定期的に石巻に足を運び生徒たちの成長をサポート。また離れている間は遠隔指導ツールを活用し指導を続けてきた。
「目標を目標で終わらせるな」― 元代表主将とトップリーガーが石巻で伝えたかった事
生徒たちの目は輝き、生き生きとしていた。24日、宮城・石巻工業高校のラグビー部を訪れた2人のラガーマン。熱い思いは確かに石巻の生徒たちに伝わった。
ラグビー元日本代表主将・菊谷崇氏と、トップリーグのキヤノンイーグルスでプレーする天野寿紀が、現役の高校生たちを実際に指導する。夢のような時間は公益財団法人東日本大震災復興支援財団が立ち上げた「東北『夢』応援プログラム」によってもたらされた。菊谷氏がキヤノンイーグルスの代表として賛同を表明したのがきっかけで、以来、天野とともに、定期的に石巻に足を運び生徒たちの成長をサポート。また離れている間は遠隔指導ツールを活用し指導を続けてきた。
前日(23日)には天野がキヤノンの一員として出場したトップリーグカップ、釜石シーウェイブス戦(岩手・いわぎんスタジアム)を観戦していた石巻工業の選手たち。目の前で迫力満点のプレーを目にしていた、現役トップリーガーの指導も受けられるとあって、フィフティーンは期待に胸を膨らませていた。
あいにくの悪天候で室内練習場での練習指導。監督からの要望でブレイクダウンに絞っての指導となったが、実に濃密な1時間となった。
ブレイクダウンのスペシャリストともいえる菊谷氏がポイントを絞って、簡潔に伝えていく。選手への問いかけを交えながら、あらゆる局面でなぜそのプレーが大事なのか常に考えさせながら進めていく。
また天野は「ナイス」「できるだけ早く」「今のプレーに拍手」などと声をかけていく。始めは自信なさげだった選手たちも、自らの頭で考え、納得しながら何度もトライしていくうちに、自信と手応えをつかんでいく。
あっという間の1時間が過ぎた。菊谷氏は「ポイントに対してやろうとする意識はすごくあった。短い時間なのでブレイクダウンの中でキーワードを絞って、1つ1つに対して、何のためにやるのかまで落とし込んで、(最終的には)自分たちでコーチングできるように、そういうアプローチでやっていた」と狙いと成果を強調すれば、天野も「大事なポイントを明確にしてクリアにして指導していく中で、自分たちのやるべきことを理解してできていた。どんどん良くなっていた。自分たちでコーチングしながら、言い合ってやっていければ、自分たちの理解にもつながる」とうなずいた。
2人に共通する狙いは、プレーに携わる当事者はもちろん、周囲のプレーヤーたちによる“気づき”だ。選手たちから「今のはいい」「今のは違う」「もっとここをこうすればいい」など活発なコーチングが行われるのが理想だという。
今年こそ「花園出場」の期待も…「どう目標達成につなげていくか」
直接指導の後半は視聴覚室に場所を移してのディスカッションだ。今季、チームとして掲げた目標は「花園出場」。大事なのはそこに到達するまでの手段だ。なぜ、この目標を立てたのか、どうすれば達成できるのか――。天野は部員たちに考える時間を設けた。FW、BKに分かれてディスカッションすることで、より具体的な目標を導き出すのが狙いだ。
部員たちが頭を突き合わせ、考え出した答え。FWからは「1人1人のリロードを早く」「接点を強くする」「声を出す」。BKからは「トライを狙う」「ボールをつなぐ」「ゲインラインより前で止める」。さらにマネージャーからも「選手がけがなどをした時の対応を早くする」と声が上がるなど、議論はより深まっていった。
そして花園予選23連覇中のライバル仙台育英に決勝で「28-19」で勝つという具体的な目標スコアを設定。そしてそこから、なぜ優勝なのか、育英をどうやって倒すのか。共通認識として再びチームに浸透させていく。
さらに目標に向けて具体的に掘り下げる。「28-19」で勝つために何をしなくてはならないのか。「ラインアウト成功率90%以上」「スクラムは100%」――。部員たちは数値目標を掲げるが、ここで菊谷氏から、さらに目標についての考察が入る。「その目標で本当にいいの? 28点取るということはどういうイメージで出したのか? 現実的なところをもう1回相談しよう。もう一度、目標設定しよう」。追加でのディスカッションタイムを設け、さらに考えさせる。
イメージを膨らませることが大事だと強調する菊谷氏は「その目標設定は修正されてもいいので、よりリアリティーをもつこと」と何度も考えさせる真意を明かし、天野も「目標に向かって努力することの大事さを伝えたかった。ただ目標を目標で終わるんじゃなくて、どう目標達成につなげていくかですね」と続けた。
夢ではなく、現実的な目標としてとらえるために必要な作業だ。天野は「しっかりと一歩ずつ目標へ向けて進んでいこう。考えながらやることが一歩につながる。頑張っていこう」と呼びかけると、菊谷氏も「目標は言うだけは簡単。頑張ったけど負けたな、では意味がない。目標に対して一人一人が必要なこと、どれだけ努力をするか。本気でどこまで思っているか。しんどい時も苦しい時も目標があると、強い気持ちをもってやっていくこと。毎日が目標に繋がっていると思って頑張ってほしい」と熱く呼びかけた。
2人の貴重な直接指導は、予定していた2時間を大きく超えた。2人を見送る、石巻工の部員たち。入学したばかりの1年生部員にはラグビー未経験者も少なくはないが、その顔つきは見違えるように精悍さを増していた。
目標の花園出場へ、「今年こそ可能性は十分ある」と声をそろえる。選手の成長を信じる2人は再訪を約束し、石巻の地を後にした。
(THE ANSWER編集部)