広島経済大学陸上競技部・尾方剛監督インタビュー第1回

　箱根駅伝は来年1月に第100回の記念大会を迎える。今回は10月14日の予選会に全国の大学が参加可能となっており、関東以外の大学チームの活動にも例年以上に注目が集まっている。昨年11月に行われた中国四国学生駅伝で2年ぶり20回目の優勝を果たした広島経済大学陸上競技部を率いるのは、2005年ヘルシンキ世界陸上の男子マラソンで銅メダルを獲得し、08年北京五輪にも出場した尾方剛監督だ。日本のトップランナーとして一時代を築いた尾方氏の勝利への哲学や指導論に迫るインタビュー。第1回では、自身の大学選びと入学後に味わった挫折について話を聞いた。（取材・文＝佐藤 俊）

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「丸刈りになるのが、とにかく嫌でしたね」

　現在、広島経済大学の陸上競技部で指揮を執る尾方剛は、昔を振り返って、そう苦笑する。

　広島県立熊野高校から大学に進学する際、複数校から勧誘があったが、高2の冬には関東のある大学にほぼ決めていた。すでに寮などの見学も終えており、「大学ってこういうものなんだ」と大学生活を楽しみにしていた。

　ところが高3になって山梨学院大を率いる上田誠仁（前監督）が熊野町までやってきて、熱い言葉で勧誘を受ける。高校の監督からは、「自分が行きたいところに決めなさい」と言われて考えた。だが、当時の山梨学院大は「1年生は丸刈り」というルールになっており、それが尾方の中で引っかかった。

「1年生は強制的に丸刈りで、その上で陸上に真剣に取り組んでほしいと言われたんです。それを聞いた時、『なんで丸刈りなの？』って思ったんです。高校生だったので大人に言い返せなかったんですが、僕は別に髪が短くても長くても走れればいいじゃんって思っていた。だから、丸刈りにする意味が分からなかった」

　熊野高の陸上部は丸刈りではなかった。競技と髪型を結び付けて考えることに意味がないと思っていたため、尾方はどちらの大学に行くか逡巡した。

　ただ、関東の大学に行くことは決めていた。

　それは、渡辺康幸（現・住友電工監督）の存在が大きかった。市立船橋高で3年連続で都大路（全国高校駅伝）に出走。高3のインターハイでは1500メートルと5000メートルの2種目を制覇した。また1万メートルで当時の日本高校記録を更新するなど、怪物級の力を示していた渡辺が早稲田大に行くのを聞いていたからだ。

「康幸が早稲田に行くのを聞いたので、彼と戦うのを考えると、関東じゃないとダメ。そこは、揺るがなかったですね。彼は高校時代から実業団の選手に普通に戦えていたスーパースターだったんです。そういう選手に勝ちたいというか、少しでも近づきたい。そういう目標になる選手だったので、彼はなんとも思っていなかったと思うんですが、僕はめちゃくちゃ意識していました（笑）」