ブルペン捕手からIT業界に転職 元DeNA選手が面接で評価された「捕手のマインド」
殴り書き2ページで分かった“野球+キャッチャー”という人間性
大学時代に就職活動を経験していたとはいえ、プロ野球界一筋の身で全く畑違いのIT企業に移るのが簡単でないことは、想像に難くない。「いかにベイスターズの6年間を魅力的に伝えるか」。対策の上でリクルーターとの1次面接に臨んだが、まだ浅かった。自分には入社して何ができ、何がやりたいのか……まともに答えられない質問もあった。
2次面接に進んだものの、このままでは採用されないのは明らかだった。救われたのは、キャリアと人間性を評価してもらえていた採用担当がいたことだ。
「『ちゃんと自分の強みと弱みを3つくらいあげて、それについて話せるようにしてきて』とサポートいただいて。ノート見開き2ページくらい殴り書きしましたね。自分はなぜこんな性格なのか、何が弱みなのか……全部出しました」
ペンを握り、自分と向かい合った時間で分かったのは“野球+キャッチャー”で成り立っている人間だということ。実力が足らないと感じていたにも関わらずNPBに飛び込んだチャレンジ精神、小学3年生から捕手を務め「どうすればチームが勝てるか」を考え続けて養われた責任感の強さ。ビジネスでも力にできることはたくさんあった。
「お客さんと話す時や、チームでプロジェクトをまとめて進めていく時に活かせると話しました。『勝ったら投手のおかげ、負けたら私のせい』という捕手のマインドでいることをアピールしたのですが、2次面接の面接官には『あのワードで決めた』と評価していただきました」
商社、不動産など5社の面接を受け、第1希望のセールスフォースに内定が決まったのが8月。17年1月に入社し、現在に至る。
シビアなプロ野球界。球団から離れ、別の仕事を探すケースは確実に生じる。NPBでもセカンドキャリアに関するサポートを強化しており、松下さんは昨年の講師を務めている。充実した第二の人生を歩んでいる野球選手に感じる、共通点を尋ねてみた。
「自ら行動して野球界の外にいる人に会っていることだと思います。全然繋がりがなくても、知人経由で話を聞きに来てくれた人もいます。縁も生まれるし、踏ん切りもつくので、やっぱり行動することは大事。
セールスフォースだって、当初の僕には『何ができるんだ』という話。入社してからタイピングを始めたのは僕が初めてなんじゃないかと思うくらい。それでも受けるという行動が大事な気がします。自分は野球しかやってこなかったから、できないんじゃないかというマインドは全く必要ない」
球界から離れた元選手の1人として、成果を出し続けることでアスリートの価値向上に貢献したい思いもある。当面の目標は営業の成績を出し続けること。その先も見据えている。
「なるべく早くマネージャーになりたいな、とは思っています。チームや人が成功することに喜びを感じますし、私がマネージャーになると何がいいかというと、このようなインタビューでも説得力がもう一段違ってくると思うんです。
チームを持って外部への発信をもっとしていきたいし、(元アスリートなどで)チャレンジしたい人を自分のチームで受け入れるということもできるかもしれない」
あの日、ノートに殴り書きして得た答え。17年間の捕手人生で培った責任感は、受け止める力にも繋がってくる。今は成長を求め、ただ邁進する。自分のチームを持ち、まとめ上げる将来に向かって。
■松下一郎 / Matsushita Ichiro
1988年7月19日生まれ。兵庫・神戸市出身。小学3年で野球を始めて以降は捕手一筋。六甲アイランド高時代、3年夏は兵庫大会3回戦敗退。関西外国語大・短期大学部に進学後、4年制に編入。3年春から正捕手となり、4年春はリーグ打率.341を記録した。10年の育成ドラフト1位でDeNA入団。2年目終盤、2軍の試合でクロスプレー時に左ひざのじん帯を断裂。翌年も復帰目前に再断裂し、13年シーズン限りで戦力外通告を受けた。14年からDeNAのブルペンキャッチャーを3年間務め、17年1月にセールスフォース入社。インサイドセールスを担当し、既に3度昇格している。現役時代の身長・体重は173センチ、78キロ。右投右打。
(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)