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「練習もチャリもバスもずっと1人で」 孤独な高校生だった羽根田卓也が得た人生の財産

孤独な日々を乗り越えリオ五輪で銅メダルを獲得、涙した羽根田【写真:Getty Images】
孤独な日々を乗り越えリオ五輪で銅メダルを獲得、涙した羽根田【写真:Getty Images】

孤独な高校時代に培った財産「人生に1人の時間は凄く大事」

「今は10代の若者も活躍できる場があり、若者の活躍が受け入れられる社会になってきていると感じます。志さえあれば、発信ひとつでYouTubeでもTikTokでも、何かを成し遂げられる時代。僕が言わなくても子供たちはそれぞれ、きっと夢を持てる時代なのかな、と。でも、自分が何か伝えるとしたら、子供のうちから成し遂げることができる社会だからこそ、より自分と向き合って、自分の夢を見つけてほしい」

 では、どうすれば自分と向き合えるのか。「人生に1人の時間は凄く大事だと思いますよ」とにこやかに言った。背景に高校時代の3年間がある。

 羽根田は高校に入学すると、一緒に続けてきた兄が競技を辞め、1人で練習する時間が増えた。朝6時前に家を出て、40分かけて練習場に向かい、朝練後にスクールバスで学校へ。放課後はまた練習して、夜の9~10時に帰る毎日。「誰かが声をかけてくれたり、引っ張ってくれたりする環境ではなかった」。しかし、他の部活より自分と向き合う時間は自然と多かった。「それが自分の志の高さ、向上心の強さにも繋がった」と言う。

「僕はカヌーという珍しい競技を選びました。『なんでこの競技をやるべきなのか』を考えないと、やっていられない競技。チャリを漕いでいる時も、スクールバスに乗っている時も、練習している時もずっと1人で。だからこそ、その時間に考えました。この競技をやって自分はどうなるのか。この競技を突き詰めるためにはどうすべきか。自分という存在と向き合って、今一度、自分が何者なのか。この人生をどう生きたいのか、と」

羽根田が子供たちに送る言葉「自分の歩みで、しっかりと」【写真:近藤俊哉】
羽根田が子供たちに送る言葉「自分の歩みで、しっかりと」【写真:近藤俊哉】

 さらに「自分と向き合うことは子供でも、大人になっても大切です」とも言った。日本で、これほどのトップアスリートでありながら、これほどの孤独を味わって競技生活を送って来た選手はそういない。その点において、羽根田しか知らない財産と言えるだろう。

「大人」であるアスリートたちも、今はマネジメント事務所に所属し、取材対応からスポンサー交渉まで担ってくれる時代。競技だけに専念し、大会で結果を残すこと以外に、余計な体力を使わなくていい。しかし、羽根田の競技人生は決してそうじゃなかった。

「今もそうですが、誰も用意してくれない競技なので。所属先も、練習場所も、遠征先も。すべて、自分の意思ひとつ、自分の一歩次第だったので。スロバキアへ行くと決めたことも含め、その一歩一歩が自分の経験になり糧になり、今、凄く大切なプロセスになっています。なので、子供たちには自分で歩みを進めて欲しいです。誰かに言われたから、みんながこうしているからじゃなくて、一つ一つの選択も自分の歩みで、しっかりと」

 与えられた場所で輝くだけじゃないアスリートは増えている。サッカー・吉田麻也、体操・内村航平ら、自らの言葉と責任で社会にメッセージを発信する。羽根田も、その一人。だから、新時代のアスリートにこんな言葉を残した。

「今後、アスリートは五輪や、それぞれの競技大会の結果以上に、選手が発する言葉や姿の価値が上がってくるのではないか。つまり、人間性。自分の競技力を求めるのはもちろん大事ですが、それだけじゃなく、自分で物事を考えて、どういう姿を伝えたいのか、見てもらいたいか。それが、アスリートにとって競技と同じぐらい大切。そういう選手も今は多いので、さらに今後増えていけば、またスポーツの素晴らしさに気づいてもらえるのではないでしょうか」

 一人で都内の取材場所に現れた羽根田は深々と頭を下げると、「このまま電車で帰りますよ」と爽やかな笑顔で、駅に向かって行った。孤高の34歳。彼が作った道に残された足跡の一つ一つが、次世代に引き継がれるべき財産だ。

■羽根田卓也 / Haneda Takuya

 1987年7月17日生まれ。愛知・豊田市出身。ミキハウス所属。元カヌー選手だった父の影響で9歳から競技を始める。杜若高(愛知)3年で日本選手権優勝。卒業後にカヌーの強豪スロバキアに単身渡り、スロバキア国立コメニウス大卒業、コメニウス大学院修了。21歳で出場した2008年北京五輪は予選14位、2012年ロンドン五輪は7位入賞、2016年リオ五輪で日本人初の銅メダル獲得。以降、「ハネタク」の愛称で広く知られる存在に。東京五輪は10位。175センチ、70キロ。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)

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