「僕はきっと立ち直れなかった」 川口能活がサッカー経験ゼロの指導者に救われた日
サッカー経験ゼロの桜井氏、それでも「想い」が川口に届いた理由
そんな桜井先生から言われたもっとも印象深い言葉を尋ねると、「 『ピーター・シルトンになれ』ですね」と川口。シルトンとは、82年から3大会連続ワールドカップ出場したイングランド代表の名GKだ。「何しろ、“目指せ”ではなく“なれ”です。その言葉に桜井先生の情熱を感じ、強烈な説得力を持って僕の心に響きました」
その日を境に、桜井先生に渡されたシルトンのビデオを繰り返し観て、キャッチングやセービングを目に焼き付けたという。
「サッカーを指導するうえで経験いかんよりも大切なのは、子供に対する愛と情熱があることだと思います。実は桜井先生自身はサッカーの経験がありません。手に入るあらゆる試合をビデオで見て、他校の先生たちの教えも受けながらコーチングの勉強を重ね、東海大一中を全国で優勝するチームに育て上げました。指導者から生徒にかける言葉って、勿論、何を言うかも大事です。でも、やはり熱が入っていない言葉は相手の血となり肉となりになりません。そしてどんな言葉も、必ず『想い』は伝わるはず。桜井先生の情熱と本気は、いつも僕らにヒシヒシと伝わってきました」
(続く)
<川口能活、初著作「壁を超える」を刊行>
川口は初著作「壁を超える」をこのほど上梓した。
42歳現役選手を支え続けるものとは何か――。順風満帆に見えて、実際は今ほど整っていない環境での海外移籍や度重なる怪我など辛い時期を幾度も乗り越えてきた。メンタルが問われるゴールキーパーという特殊なポジションで自分自身を支え続けるものは何なのか。
第1章 苦境のおしえ
第2章 人を育てるということ、組織(チーム)を率いるということ
第3章 リーダーの肖像 ――指揮官たちに教わったこと
第4章 厳しかった日々と家族の存在
第5章 「現役」であること、「引退」に思うこと
「あの時」、川口は何を思っていたのか――。定価:本体800円+税 ISBN:978-4-04-082166—5
【了】
ジ・アンサー編集部●文 text by The Answer