サニブラウンは「怠け」を卒業し強くなった 躍進の裏にあった変革とコーチとの信頼
深まったコーチとの信頼関係、ホロウェイHC「彼は私を信じ、私は彼を理解できた」
特に100メートルで好結果が出たことは、数多くの名スプリンターを輩出したフロリダ大のトレーニングの成果の表れでもあった。ホロウェイ・ヘッドコーチは100メートルを走るための技術を学ぶ必要性を説いてきた。サニブラウンの場合、スタートの苦手意識を払拭することから始まった。
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同コーチは「以前は飛び出しの4歩目から12歩目までで力み過ぎる癖があった。出だしの10メートルで勝敗は決まらないことを言い聞かせた。最初の10メートルは勢いをつけることに集中させた。肩の位置を平行に保ち、正しいフォームで腕を振れるように修正した」と説明する。以前はスタート時に力任せで地面を蹴っていたが、低い姿勢から体を自然に起こして加速につなげる形に変えてタイムも伸びた。
今年5月に日本選手2人目の9秒台を出した際、ホロウェイ・ヘッドコーチは好調の要因として「トレーニング・プログラムと100メートルを走るための技術を信じることができるようになったのが大きい」と話していた。「コーチとアスリートが関係を築くには1年くらいかかる。彼は私を信じるようになり、私は彼のことをより理解できるようになった。一緒になって成長できたことが大きい」と、信頼関係の重要さを強調する。その後の活躍でお互いの信頼は、さらに深まったように見える。
トップスプリンターのピークは20台後半に迎えるというのが同コーチの持論。「あまりに豊かな才能の持ち主だから、みんな忘れているのかもしれないが、彼はまだ20歳なんだよ。身体は成長途上にあり、これからもっと力強くなる。身体ができて才能に追いつくようになれば、もっとスペシャルなことをやってのけるだろう。彼の才能は素晴らしい。だからこそ、一人前になるまで慌てずに前進することが大事なんだ」。長期的視野に立った指導方針はこれからも変わらない。
世界選手権(9月27日開幕・ドーハ)での活躍が今から待ち遠しい。「10秒の壁」突破や日本記録更新が通過点に感じるほど、今年の活躍はめざましいものがある。昨年から一回り大きくなった体格や力強い走りは目を見張るものがあるが、それ以上に異国の環境に適応した精神面の成熟が成長の土台となっている。来年の東京五輪という大きな目標に向かって、着実に前進を続ける若きスプリンター。コーチが言うように、技術と身体が成熟期を迎えたとき、記録はどこまで伸びるのだろうか。今、我々が目にしている数々の偉業は、サニブラウン伝説のまだ序章に過ぎない。
(岡田 弘太郎 / Kotaro Okada)