[THE ANSWER] スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト

使い果たした“貯金”から投資、再興…エディー2年目、日本代表から聴こえる進化の鼓動は本物か

就任2季目に入ったエディー・ジョーンズHC【写真:(C)JRFU】
就任2季目に入ったエディー・ジョーンズHC【写真:(C)JRFU】

選手層の“貯金”使い果たし、勝利と投資の両面を進める難しさ

 エディー体制が始動した昨季は、テストマッチ通算4勝7敗。世界ランキングで同レベルないし下位のジョージアらにも敗れるなど、期待値には届かない成績に終わった。2023年の前回W杯を経験値の高い選手で固めて挑んだ影響もあり、日本代表は選手層という“貯金”を使い果たしてしまっていた。そのため、エディー体制では若手育成という課題に向き合わざるを得ない現実もある。勝利と同時に若手への投資という2つのアプローチを進める難しさもあって、結果が伴わない苦戦を強いられてきた。

【注目】日本最速ランナーが持つ「食」の意識 知識を得たからわかる、脂分摂取は「ストレスにならない」――陸上中長距離・田中希実選手(W-ANS ACADEMYへ)

 厳しい戦いは今でも続いているのは間違いない。7月のウェールズ戦は1勝1敗と面目を保ったが、PNCでは開幕戦となった8月30日のカナダ戦でも課題を露呈した。57-15という快勝の一方で、反則数は敗者の8に対して12に及んだ。この試合の先発15人の平均キャップ数は10あまり。リーグワンで世界トップクラスの外国人選手と対戦経験も積み上げてはいるが、国の威信を賭けたテストマッチの激しさもコンタクトの強さも経験不足の若いメンバーは、相手からのプレッシャーや遂行力の低さによるミスから反則を積み上げた。とりわけ主導権争いが続いた前半の反則数はカナダの5に対して日本は8。22mライン内への侵攻は手元のメモでカナダが2、日本が7と優位に立ちながら、ミスや反則が響いて参加国中最も世界ランクが低い相手(当時25位)に17-10という接戦を強いられた。

 エディーは「ウェールズ戦(7月5、12日)以来久しぶりのテストマッチで、しかも10人の選手が1、2キャップかノンキャップ。気持ちが入り過ぎて個人プレーに走ってしまい、反則も増えた」とチームの若さを指摘したが、反則の多さに加えてプレー精度の低さが目立った。カナダ防御が、フェーズを重ねられるとサイドライン付近にスペースが空いてしまう傾向があったにもかかわらず、スコアを積み上げらない。自陣ゴール前での日本のラインアウトでは、リスクのあるロングスローをミスして逆に相手ラインアウトとなり、そこからトライを奪われている。守っても、相手のキックカウンターに組織的な防御を整え切れず自陣に攻め込まれPGを許すなど、連携の粗さ、整備不足が目についた。

 最終スコアでは快勝だったが、すでに中心選手になりつつあるSH藤原は「(反則の多さは)レフェリーとのコミュニケーションが大事だし、自分の判断で行ってしまってはダメだと思う。こんなに反則をしていたら(上位国には)キックを蹴られて攻められてスコアも苦しくなる」と厳しい表情で会場を後にした。司令塔のSO李承信(コベルコ神戸スティーラーズ)も「オフサイドのところは、もっとコミュニケーションが必要。(前へ)行っちゃう気持ちは分かるが、そこで一度自分に立ち返ることが大事」と指摘するなど、かなり“宿題”を残した白星スタートだった。

 敵地でのアメリカとの第2戦も47-21と快勝した日本だったが、カナダ戦同様、反則数は12対10と敗者を上回り、ディシプリン面の課題を残した。その一方で、成長の兆しを感じたのは組織で攻める意識だった。前半23分に自陣から右オープン、さらに左に大きくボールを動かしてアメリカの防御システムを揺さぶると、SO李が敵陣深くにスペースを見出してボックスキックを蹴り込んだ。結果的にボールがデッドラインを越えてしまったが、試合後エディーは「事前の決め打ちのプレーではなかったが、一定の枠を持ちながら選手たちが自分で判断することは尊重している」と前向きに評価している。

 指揮官が指摘した「判断」は10分後に結果を残した。中盤右展開のラインアタックからFBサム・グリーン(静岡ブルーレヴズ)―石田桔平(横浜キヤノンイーグルス)と展開してサイドの防御を崩してゴールラインに迫ると、内側をライリー、チャーリー・ローレンス(三菱重工相模原ダイナボアーズ)の両CTBらが分厚いサポートをみせた。その中でパスを受けたSH福田健太(東京サントリーサンゴリアス)がタックルをかわしながら、外に待ち受けたFL下川甲嗣(同)にパスしてトライを仕留めている。サポートの約束事と戦況に応じたポジショニングで流れるような組織攻撃から奪ったスコアに、エディーは「選手が自らグラウンド上で判断出来て、アジャストしているのは求められるべき姿だ。短い期間の中でそこまで成熟したのは嬉しいこと」とチームを称えている。

 前年のエディー体制の再始動から掲げた「超速ラグビー」は、どのチームよりもスピードを重視した攻撃的なスタイルを目指しているが、初年度からここまでの試合では超速を意識するあまり攻め急いで、無理なパスからミスを犯して攻撃チャンスを失うシーンが目についた。攻めたいという気持ちが選手を前のめりにさせる一方で、サポートの意識、チャンス時の反応も不十分だったために、組織として十分に機能出来ない試合が続いたが、2年目の敵地でのアメリカ戦では、ようやく個々の選手の判断力が進化し、組織として連動することで攻撃の厚みがでてきたことを印象づけた。

 トライを決めた下川も「FWとしても、アタックをする上で自分たちの役割というのは明確になってきている。なのでポジショニングは早くなっていると思うし、(李)承信が10番としてリードしてくれているので、FWとしてはすごくやりやすい。ポジショニングが良ければいい攻撃が出来る」と自分たちのスタイルの構築には前向きな感触を掴んでいる。ボールを持たない選手が、どうポジショニングして動くかを判断して、次のプレーに備えるかという意識の高まりが見られるようになってきている。

1 2 3 4 5

吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

W-ANS ACADEMY
ポカリスエット ゼリー|ポカリスエット公式サイト|大塚製薬
CW-X CW-X
lawsonticket
THE ANSWER的「国際女性ウィーク」
N-FADP
#青春のアザーカット
One Rugby関連記事へ
THE ANSWER 取材記者・WEBアシスタント募集