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使い果たした“貯金”から投資、再興…エディー2年目、日本代表から聴こえる進化の鼓動は本物か

PNCを通じて「超速ラグビー」に手応えを深めている【写真:(C)JRFU】
PNCを通じて「超速ラグビー」に手応えを深めている【写真:(C)JRFU】

アメリカ戦の終盤にもあった「らしさ」生かしたトライ

 アメリカ戦では終盤にも「らしさ」を生かしたトライを決めている。ミッドフィールドでの相手の攻撃で、この日が代表デビューのFL奥井章仁(トヨタヴェルブリッツ)が思い切りのいいチャージでノックオンを誘うと、こぼれ球をチームで繋いで同じく初キャップのWTB木田晴斗(S東京ベイ)が左サイドを突破。敵陣22mラインまで激走してラックにすると、そこから右ワイドに展開して、都合7人がパスを繋いで4キャップ目の石田が右サイドを駆け抜けた。個々のパワーで勝負してきたアメリカとは対照的な、組織でボールを繋ぎ、防御を崩して奪ったトライだった。

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 準決勝のトンガ戦では戦略面での進化を印象付けた。世界ランキングでは13位の日本に対して17位、過去の対戦もトンガの3連敗という力関係だったが、フィジカルを前面に出した縦への強さは世界トップクラス。6連敗中だったサモアを今大会プール戦で倒すなど調子を上げる中での対戦だった。日本は前半に粘り強い防御で応戦したものの、体重151kgのPRベン・タメイフナを中心としたトンガの個々のパワーに重圧を受けた。自陣ゴール前で9次攻撃を低いタックル、ダブルタックルで粘り強く止め続けたが、直後のラインアウトからの突進で6分に先制トライを献上するなど、前半を終えて17-10というスコアが主導権を掴み切れない苦闘を物語っていた。

 その苦戦の中でも光ったのが、キックとランを織り交ぜた、80分間を見据えた戦略だった。SO李を中心に、自陣ゴール前のピンチからでもボールを動かし、相手ディフェンスを走らせてからキックで陣地を押し上げ、トンガの思い切りラッシュアップしてくる防御を見て裏の空いているスペースにクロスキック、ショートパントを蹴って相手を背走させた。このような1つ1つの地道なプレーの積み重ねが、鎧のような分厚い筋肉を身につけたトンガ選手を消耗させ、後半キックオフの段階ではすでに“足”が止まり始めていた。2分には、トンガ陣ゴール前ラインアウトからボールを手にしたSH藤原が、猛然と前に出てきたトンガディフェンスの裏にチップキックを上げて、CTBライリーがキャッチしてそのままトライ。その後は、日本のテンポに苦しんでトンガが連発した反則に1トライ、2PGを畳みかけて、前半の接戦モードを快勝劇に切り替えた。

 相手の陣形を読みながらパス、ラン、キックを使い分けてゲームを組み立てたSO李が、試合後にこう振り返っている。

「相手はすごくラインスピードを上げてきたが、キックスペースというところではチャンスでもあった。なので、BKで攻撃を仕掛けながらキックをしてプレッシャーを掛けることは出来ていたし、アタックでもしっかりとボールをキープして、フェーズを重ねてトライも出来た。そういう意味では前半の課題を(後半に)修正出来たのは良かった」

 トンガ戦のゲームプランの背景にあるのは、両チームのフィットネスの差だ。統括団体ワールドラグビー(WR)が提示するPNC各試合での経過時間別の得点の数値に、チームの特徴が顕著に読み取れる。準決勝までの2試合での数値ではあるが、トンガは前半40分までに全スコアの75%をマークし、さらに前半20分までだと約43%の点を奪っている。このような傾向は、過去のトンガの戦いぶりから考えても整合性はあるだろう。数値が物語るのは、トンガがキックオフからフィジカルを武器に積極的に勝負を挑んでくる特性があり、後半に体力を大きく消耗させているという傾向だ。先にも触れたように、トンガはこの試合でも開始6分の先制から前半で3トライを奪っているが、後半は1トライのみに終わっている。

 対照的に日本は後半のスコアが56.7%で、試合を20分毎に区切れば最後の20分での得点が40%を超えている。勿論この数字の大きな要因の1つは、試合終盤に相手が消耗する中でジャパンが自分たちのフィットネスの高さを保ち続けているからだが、終盤に走り勝つというセオリーは時代を超えて今でも変わらない強みなのだ。トンガ戦では、キックとランを駆使して組織でいかに相手を消耗させて、後半の自分たちのフィニッシュに繋げようという戦略、つまりゲームプランが遂行されたことで、日本らしいゲームが表現されていた。ボールキャリーなど高い運動量で活躍したPR竹内柊平(東京SG)のコメントが、トンガ戦に臨む選手のマインドセットを物語っている。

「先ずはしっかりとプレビューの段階で、自分たちが何をすれば勝てるのかを23人、いやスコッド30人全員が明確にしていたのが大きかったと思います。フィジカリティーが高い相手がやりたいのは狭い範囲で前に出てプレッシャーをかけて、フィジカリティーで相手(日本)をいじめることだと思っていたので、それに対して僕らはしっかりとワイドに展開して、ダミーランナーを使い、ショートパスなども効いていた。自分たちの役割を理解することで、掲げている超速ラグビーを体現した試合だと思う」

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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