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使い果たした“貯金”から投資、再興…エディー2年目、日本代表から聴こえる進化の鼓動は本物か

ラグビー日本代表はパシフィックネーションズカップ(PNC)2025を2位で終えた。昨季と同じフィジー代表との決勝は27-33と惜敗。エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)復帰初年度と順位は変わらなかったが、世界ランキング9位の相手(日本は13位)に、1年前の24点差(17-41)から1トライ1ゴールで勝敗がひっくり返るまで詰め寄った。1か月後から始まる世界ランク7位のオーストラリアを筆頭に、同1位の南アフリカ、そして2位アイルランドら世界トップクラスの強豪との対戦を前に、2シーズン目の新生エディージャパンはどこまで進化しているのか。PNC4試合から強化の座標を確認する。(文=吉田 宏)

PNC2位に入った日本代表の戦いから進化を検証する【写真:(C)JRFU】
PNC2位に入った日本代表の戦いから進化を検証する【写真:(C)JRFU】

決勝はフィジーと接戦、2位で終えたPNC4試合から強化の座標を確認

 ラグビー日本代表はパシフィックネーションズカップ(PNC)2025を2位で終えた。昨季と同じフィジー代表との決勝は27-33と惜敗。エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)復帰初年度と順位は変わらなかったが、世界ランキング9位の相手(日本は13位)に、1年前の24点差(17-41)から1トライ1ゴールで勝敗がひっくり返るまで詰め寄った。1か月後から始まる世界ランク7位のオーストラリアを筆頭に、同1位の南アフリカ、そして2位アイルランドら世界トップクラスの強豪との対戦を前に、2シーズン目の新生エディージャパンはどこまで進化しているのか。PNC4試合から強化の座標を確認する。(文=吉田 宏)

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 長野・菅平と変わらない標高1300m近いアメリカ・ソルトレークシティでの決勝戦。昨季と同じフィジーに屈して帰国の途に就いたエディーは、こんなメッセージを送ってくれた。

「結果に関しては望んだものではありませんでしたが、PNCではチームとして大きな成長が見られたと思っています。ディフェンスが改善して、セットプレーも安定してきました。また、アタックのバリエーションが増え、スコッドの層も厚くなって、決勝戦では(怪我などで)25人しかフィットしている選手が残っていなかったが、それでも十分に戦えたということは、いい方向に向かっているということです」

 指揮官も「望んだものではない」と述べた通り、順位だけを見れば昨季から長足の進歩はなかったと裁断されてもやむを得ない。2年後に近づくワールドカップ(W杯)でトップ8以上を目標に掲げるチームには、ティア2と呼ばれる世界ランク10位台のチームを中心に開催されるPNCでの準優勝は望んだシナリオではない。だが不動のエースに成長するCTBディラン・ライリー(埼玉パナソニックワイルドナイツ)、接点でのバトルでこの大会でのMVP級の働きをみせたFLベン・ガンター(同)ら核となる選手を決戦直前に相次いで怪我で失い、先発15人の平均キャップ数12.9という若い布陣で、1年前は遠くに霞んでいた23年W杯8強のフィジーを相手に、23点差から残り15分で6点差に迫った戦いぶりには進化の鼓動を聴き取れる。

 昨季の始動から「超速ラグビー」を掲げる新生エディージャパンだが、この太平洋を跨いだトーナメントで進化を印象付けたのは「組織」だ。攻守の両面で選手個々が連動したラグビーを見せ始めてきたが、組織で戦うことが「超速」のベースでもある。苦杯に終わった決勝戦だったが、開始5分の先制トライにも組織で戦うためのディテイルが込められていた。

 日本は敵陣ゴール前ラインアウトからモールを押し込むと見せかけて、奇襲を仕掛けた。モールの後方でボールを手にしたNo8ファカタヴァアマト(リコーブラックラムズ東京)がタッチライン際へ駆け込むサインプレーで、パスを受けたHO江良颯(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)が防御3人を突破してインゴールへ飛び込んだ。

 フィジーFWは、日本が強みにしてきたドライビングモールを仕掛けてくると頭に入れていたはずだ。だからこそ効いた奇襲だったが、この一瞬の仕掛けの中に日本流の周到な細工が組まれていた。ラインアウトでボールを捕球した選手を中心にモールが組まれる瞬間に、左右のエッジ(モールの側面)に入る選手が勢いをつけて押し込みながら相手選手を密集に巻き込んでいる。そのためフィジーのモール周辺の防御が枚数を減らしたところを、スピードのあるファカタヴァが突き、江良が仕留めている。

 相手の裏をかいたトライではあるが、このモールのアイデアはPNCへ向けた強化がスタートしたばかりの8月15日の都内での公開練習に萌芽があった。ラインアウトからモールを組む練習で、選手が勢いをつけて密集に入り、相手防御に強くヒットすることに取り組んでいた。エディーが率いた2015年W杯のメンバー(LO)で、今季から代表アシスタントコーチ(AC)を務める伊藤鐘史はこんな説明をしている。

「(ラインアウトで)どこで勢いを生むかと考えると、僕はスタートのところで作って欲しいんです。モールは最初のところでちょっとでも前に出ると一気に勢いが出る。なので、ジャンパー(ボールを捕球した選手)が着地した瞬間(の押し込み)を狙いたい」

 今回のフィジー戦では素早い連動による仕掛けが、モールを前進させるのではなくモールサイドの相手防御の人数を減らすことでトライに繋がっている。8月の練習の時は「このプレーだとオブストラクション(反則)になる可能性があるので、そこは気をつけないといけない。ただ今日は勢いを見たかった。こうやってベースを作って何か手応えがあれば、選手も自信を持ってやってくれると思う」と指摘していた伊藤ACだが、強化合宿、大会期間を通じてFWメンバーはしっかりとモールを熟成させて、実戦に生かしている。ラインアウトからモールを組んで押す中で、このような細工に取り組む日本の緻密さが、特有の強みとして効果を見せ始めている。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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