「死も同然」の負けから気づいた原点 羽生結弦は壁を越えていく、きっと何度でも―
人一倍負けず嫌いの羽生が再び目覚めたアスリートとしての本能
昨年2月の平昌五輪で連覇を達成した翌日の会見で、羽生は「もうちょっとだけ、自分の人生をスケートにかけたい」と、前人未到のクワッドアクセル(4回転半)の成功をモチベーションに現役続行を決めた。だが、世界選手権の激闘から一夜明けた24日、心境に変化が現れていた。
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「平昌後、結構ふわふわしてたんですよね。目的がきっちり定まってなかったのかなという感じがしてました。『やんなきゃいけないんだなあ』って思いながらスケートをやってて。自分の原点がこのシーズン通して見えましたし、やっぱスポーツって楽しいなって。強い相手を見た時に沸き立つような、ぞわっとするような感覚。もっと味わいつつ、その上で勝ちたいなって思えた」
尊敬しあえるスケーターたちと戦って、完璧な演技をしたうえで勝つことが、自分の一番の喜びであり、自分のためでもある――。人一倍負けず嫌いの羽生が「原点」を意味する演目を滑り、高い壁を目の前にした時、アスリートとしての本能に再び目覚め、勝利への欲を取り戻したことは、大きな意義があった。
世界選手権の2位は今回が3度目。思えば15年に2位となった翌15-16年シーズンはSP、フリー、合計とも2度、世界歴代最高得点(当時)を更新した。16年に2年連続の2位に終わって臨んだ翌16-17年シーズンは史上初めて4回転ループを成功させ、17年世界選手権はフリーで世界歴代最高得点(当時)を更新してSP5位から逆転優勝した。
羽生は24日、スモールメダルセレモニーに集まった約3000人のファンへ来季に向けてこう宣言している。
「アクセル頑張ります。ルッツも頑張ります。フリップも頑張ります。これからもまだまだ心配かけさせる方向ですけど、リスクを負いながらも一緒に戦ってくださるとうれしいです。これからもよろしくお願いします」
勝つための、4回転全6種類のコンプリート。右足首に加え、腰の慢性的な痛みも抱えるが、かつて「壁の先には壁しかない」と言った絶対王者は、これまでも悔しさをバネに強くなってきた。だから、さらなる高みを目指し、壁を何度でも越えていくだろう。
(福田 智沙 / Chisa Fukuda)