「無事に終わって」と言わない妻 突かれた核心、絶対に勝て…ボクサー京口紘人が未来を白紙にして挑んだ3階級制覇
13日、ボクシングの元世界2階級制覇王者・京口紘人(ワタナベ)が、東京・両国国技館でWBO世界フライ級王者アンソニー・オラスクアガ(米国・帝拳)に挑戦。2022年11月の王座陥落から再起し、3階級制覇挑戦のチャンスを手にした。不退転の決意で臨んだ日々を全3回でお送りする。第1回は「初心」に帰った日々。結婚2年になる妻・亜希さんの一言がきっかけだった。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

京口紘人、3階級制覇挑戦への日々
13日、ボクシングの元世界2階級制覇王者・京口紘人(ワタナベ)が、東京・両国国技館でWBO世界フライ級王者アンソニー・オラスクアガ(米国・帝拳)に挑戦。2022年11月の王座陥落から再起し、3階級制覇挑戦のチャンスを手にした。不退転の決意で臨んだ日々を全3回でお送りする。第1回は「初心」に帰った日々。結婚2年になる妻・亜希さんの一言がきっかけだった。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
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何気ない日常、台所に立つ妻の言葉にハッとさせられた。世界戦のチャンスが舞い込んだ後のこと。練習で疲れた京口はくつろいでいた。
「良い意味でも、悪い意味でも大人になりすぎている」
大学を卒業し、大阪・和泉市から上京したばかりの頃。ロードワーク中に散歩をする犬を見かけた。「撫でていいですか?」。別れ際、飼い主に告げた。「僕、ボクシングをやっていて。世界チャンピオンになるんで、見ててください!」。爽やかな風を吹かせ、走り去った。
そんな青年は数年後の2017年7月23日、IBF世界ミニマム級王座に初挑戦。国内最速記録のデビュー1年3か月で世界王者になった。まだ怖いもの知らずだった23歳。あれから2階級を制し、敵地メキシコの大アウェーでも防衛した。
31歳、世界戦は過去9試合。これだけ練習すれば十分だろう、戦歴を重ねるにつれ、いつしか“要領の良さ”まで磨かれていった。いつもなら「怪我なく無事に終わって」とリングから帰る場所でいてくれる妻。今回、そうは言わなかった。
「もっと『勝つ』っていう気持ちで臨んで。やるからには絶対に勝ってきてな」
核心を突かれた。
「自分が凄く保守的だった。絶対に勝つ、という初挑戦の時みたいなフレッシュな気持ちが足りていない。やっている僕からすれば『簡単な世界じゃないよ』と思っていても、ボクシングをやったことがない妻が思うことってやっぱりそういう部分。背中を押してもらった」
対するオラスクアガは26歳の若手王者。わずか8戦目で世界王座に就き、あの日の自分のように勢いがある。下馬評は不利とされた。「無理だ」と言われる状況で挑み、勝つ。京口はそれを「ロマン」と表現した。
「しかもプロボクサーでこういう舞台に立てるのは限られる。数少ない人しか立てない。そこで今、チャンスがある。そこに価値、ロマンがあると思っている」
1月末、メキシコに飛んだ。