陸上競技こそ「本当の人類最強と…」 YouTube、Netflix…コンテンツ過多の時代に考えるスポーツを観る面白さ――陸上・田中希実

東京世界陸上をきっかけに「観る人が陸上をもっと好きになって」
田中は実感を込めて言う。
「自分自身、陸上ができて、こういう立場になれていることが小さい時には想像もつかなかったし、奇跡に近いこと。それでも、今もなお成長したいと思うのは、我ながら不思議な部分。成長すればするほど、まだ足りないと思ってしまう。でも、それが人間なんじゃないか。他の方からは陸上で活躍しているからすごいと見えるかもしれないですが、実はそうじゃなく、私がまだ私自身に可能性を感じているように、他の方々も絶対同じだけの可能性は秘めているんじゃないかと思うんです。
私はアスリートじゃなくても、同級生で一般の会社に就職して、お金を稼いで家族を作ったり、趣味のためにいろんなことに挑戦したり楽しんだりしているだけでも、すごいと思う。私は陸上しかできない人間なんだと、引け目を感じてしまうこともある。逆に、友達や多くの方々に私の走りを見て勇気をもらったと言っていただける機会が多いので、お互い様の部分があるのかな。だから、絶対的に誇れることは誰にでも絶対にあるんじゃないかと、だんだんわかってきた気がします」
アスリートは必ずしも特別な存在なわけじゃない。可能性は誰でも同じように秘めている。ただ、アスリートは可能性を信じ、阻まれながらも挑戦し続ける姿がわかりやすい。だから、表現できるものがあると田中は考えている。
東京五輪はコロナ禍で1年延期された上に無観客開催だった。
あれから4年。東京世界陸上から陸上の魅力が広がり、スポーツそのものが日本に文化として定着するきっかけになることを願う。
「観る人たちが陸上をもっと好きに、あるいは初めて好きになって、他の大会でも陸上競技場に足を運んでくださるようになったら嬉しいです。『世界陸上だから観に行く』じゃなく、『陸上だから観に行く』という環境に日本全体がなれば、国として陸上がアクティブになっていく。走るって健康体になることもメリットですが、精神的にも気付いたら悩みを忘れていて、日常のつらいことから逃げる作業として考えることもできる。そういう側面が今の社会には合っているかもしれない」
世界陸上を「選手が陸上を愛して、観る人が陸上を愛して……たくさんの『好き』が詰まった大会」と表現する田中。大歓声が響く、秋の国立競技場に想いを馳せた。
■田中 希実 / Nozomi Tanaka
1999年9月4日、兵庫・小野市生まれ。ランニングイベントの企画・運営をする父、市民ランナーの母に影響を受け、幼い頃から走ることが身近にある環境で育った。中学から本格的に陸上を始め、西脇工高(兵庫)に進学。同志社大を経て、豊田自動織機へ。2023年4月にNew Balance所属アスリートとしてプロ転向。東京五輪は1500メートルで日本人初の8位に入賞するなど、複数種目で日本記録を保持する。趣味は読書。好きな本のジャンルは児童文学。とりわけ現実世界に不思議が入り混じった「エブリデイ・マジック」が大好物。THE ANSWERで自筆コラム「田中希実の考えごと」を連載中。
(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)
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