188cm115kgの逸材高校生も…ラグビー界で本格化した代表強化策「JTS」とは 欠けていた世代の橋渡しに本腰
次世代のラグビー日本代表を育成する「ジャパン・タレント・スコッド(JTS)プログラム」合宿が2月13日にメディア公開され、指導した日本代表のエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)が取材に応じた。同HCが昨春の就任と同時に立ち上げたプロジェクトは、合宿期間、海外遠征と活動規模を今季は大幅に拡大。これまで本格的に着手出来なかった世代の強化を押し進めることで、欠けていた強化のミッシングリンクを繋ぎ合わせることが期待される。合宿を陣頭指揮したエディーの言葉から、この世代の強化の重要性と可能性が浮かび上がる。(取材・文=吉田 宏)

合宿を陣頭指揮したエディーHCの言葉から浮かぶ世代強化の重要性と可能性
次世代のラグビー日本代表を育成する「ジャパン・タレント・スコッド(JTS)プログラム」合宿が2月13日にメディア公開され、指導した日本代表のエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)が取材に応じた。同HCが昨春の就任と同時に立ち上げたプロジェクトは、合宿期間、海外遠征と活動規模を今季は大幅に拡大。これまで本格的に着手出来なかった世代の強化を押し進めることで、欠けていた強化のミッシングリンクを繋ぎ合わせることが期待される。合宿を陣頭指揮したエディーの言葉から、この世代の強化の重要性と可能性が浮かび上がる。(取材・文=吉田 宏)
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「イイネェ」「スバラシイ」
代表合宿と同じエディーの口癖がグラウンドに響いた。相手は23歳以下の学生世代。すでに2月5~8日の合宿で始動した今季のJTSだが、同12日から3日間行われた東京近郊での第2回合宿では、正代表の指揮官が初めてチームに合流。正代表の合宿同様に、自らピッチの中で選手に混じって、実戦形式のメニューに取り組んだ。
「JTSは日本代表の中で最も大事なプロジェクトだと考えている。世界のラグビーの中で、トップ4チームとそれ以下のチームを比べると大きなギャップがある。その大きな理由は、トップ4が若手育成に力を入れてきたことで強化が加速したからだと思う」
昨年12月のコラムでも扱ったが、世界の強豪諸国が代表の「セカンドチーム」つまり、これから代表に選ばれていく世代の強化に力を入れる中で、出遅れている日本もようやく着手し始めたのがJTSだ。昨季はわずか2日間の開催だったが、今季は7度の国内合宿と、3試合を予定するオーストラリア遠征が4月までに組まれている。活動日数は都合43日に及ぶ。1月の概要発表では50人の選手が選考されて、合宿毎にコンディションなどを顧慮した35人前後のメンバーが参加することになる。今回の合宿では、将来性を期待されるSO上ノ坊駿介(天理大3年)や、長崎南山高から4月にプロ契約で静岡ブルーレヴズ入りするPR本山佳龍ら35人が招集された。
エディーは「トップ4」と語ったが、2月18日現在の世界ランキングでは1位から順に南アフリカ、アイルランド、ニュージーランド(NZ)、フランスが占める。だが、圏外のイングランド(ランク6位)、スコットランド(同7位)なども含めたいわゆるティア1諸国は、ここ数年で6か国対抗やオセアニア諸国間での連携を活用して、若手の国際試合などに力を入れ、強化育成と選手層に厚みを持たせようとしている。NZは、昨秋に年齢の縛りのない準代表のNZフィフティーンが、正代表と同時進行でヨーロッパ遠征を行っている。このような状況の中で、エディーは日本の若手世代育成の現状と重要性を指摘する。
「ジャパンがいち早く強化されるには若手育成が大事だと思う。日本代表は高校レベルではすごく強くて、2年前は(19歳以下=U19)アイルランド代表に勝ち(通算1勝1敗)、昨年は(U19)イタリアに最後の数分で(逆転)負けている(第2戦で勝利、通算1勝1敗)。だが、その次の4年間の日本での育成が不足している。大学ではいいレベルのラグビーはしているのだが、エリート育成という観点では19歳から22歳の強化がまだまだ足りてない。そこのレベルにハイパフォーマンスのトレーニングを与えていきたい。今回は高いレベルの試合環境として3試合をオーストラリアで行い、その後にも国内で数試合が行われるかもしれない。そういう強化を目指すのが今回のJTSプロジェクトだと考えています」
世界の強豪国が、クラブチームを基本単位(底辺)として、地域代表→代表チームという強化のピラミッドを築いてきたのに対して、日本のラグビーは大学、企業チームが強化に取り組んできた。そのため、他国のような強化構造には脆弱さがある。エディーが語るように、世代別の強化をみても高校、世界大会が行われているU20までは日本でも代表強化は継続されている。だが、強豪国ではU20を卒業すればプロ契約するエリート選手も多い一方で、日本ではU20を終えてから正代表入りするまでに強化の空白が存在してきた。このミッシングリンクを繋ぎ合わせる機関としてJTSが活動をバージョンアップさせている。
若手世代の強化について、エディーはアイルランドを成功例に挙げている。先にも触れたように世界ランキング2位、今季の6か国対抗で3連覇に挑む強豪だが、強さの背景には選手の育成、強化のシステムがある。
「最近、非常に興味深かったことだが、アイルランド代表も多く輩出するヨーロッパ最強クラブのレンスターでは、80%の選手がアカデミーから育成されてトップチームへと上がっている。アイルランド代表が強いのは、首都ダブリン(レンスターの本拠地)には若手育成のルートとして高校が16しかないものの、そこからアカデミー、アカデミーからレンスター、そしてアイルランド代表という流れの連携で育成が進んでいることだ。日本も彼らと同じように若手育成に取り組んで、代表により多くの選手を送りたい。日本がアイルランドのように出来ない理由はない。JTSは、おそらく3年ほどかけてすごくいいプログラムになるのかと思います」